【七日間ブックカバー・チャレンジ:一日目】井上靖『敦煌』
SNS上にて「七日間ブックカバー・チャレンジ」というタイトルの連続投稿を見かける。日本でコロナウィルスの蔓延により外出自粛となっている状況下、この機会に読書文化普及のため、一週間で一日一冊を紹介するという趣旨である。一冊紹介するごとに一人、もしくは七冊紹介した後に一人、誰かにバトンタッチすることになっているが、私もバトンを受け取ったので、やってみることにした。
本来はブックカバーをSNSにアップするだけでいいらしい。ただ、見ていると、皆さん色々とコメントを加えているようなので、私も規則違反かもしれにが、何がしかの思い入れも書き込んでおいた。思い入れがあると、やはり長々と書き込んでしまうし、書き始めると色々なことも思い出す。多忙な中ではあるが、こういうのを書くこと自体がいい気晴らしになった。私はフェイスブックに書き込んでいたが、備忘録的にこちらにも書き写しておく。
七冊を選書した基準については、自分もこういう作品を書くことができたらいいなあ、という憧れや敬意を抱いた本という形にした。初心を思い出す気持ちで書き込んだ。私は現在、台湾研究をしているが、そんな私が台湾関係の本を紹介するのは当たり前すぎるので、そっち方面はない。ただし、私が今後、台湾について何かを書こうとするとき、その書く姿勢としてこれらの七冊を意識しているということは言える。
書影は自身の蔵書を使うのが筋なんだと思うが、現在は台南に仮住まい中で、蔵書の大半は東京の実家にあるので、フェイスブックではネット上で拾った画像や在籍している大学図書館の所蔵本で代用した。このブログでは、成功大学図書館所蔵本の書影のみ載せることにする。
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【七日間ブックカバー・チャレンジ:一日目】
井上靖『敦煌』
井上靖『敦煌』
井上靖といえば、『しろばんば』『夏草冬濤』といった伊豆を舞台とした自伝的作品も捨てがたいのだが、私が最初に読んだのは『敦煌』である。中学生の頃、佐藤純彌監督によって映画化されたのを見たのがきっかけ。続けて、井上の同系列の作品集『楼蘭』も読んだし、岩村忍との共著『西域』も印象に残っている。映画上映に合わせて、どこかの美術館(百貨店系だったように思う)で「西夏王国展」も開催されていたのだが、親にせがんで連れて行ってもらい、その時に購入した図録は今でも実家に残っている。
いずれにせよ、井上靖の作品をきっかけとして色々と読み漁りながら、シルクロードや中央アジアへロマンをはせる気持ちを高めていった。そのように濫読した中には、例えば司馬遼太郎『草原の記』も含まれる。砂漠と草原──いずれも日本では見ることのできない、無限の空間の広がりに憧れを抱いていた。そうした中央アジアへの関心は大学に入ってからも続き、史学科の民族学考古学専攻に所属して、卒業論文はタクラマカン砂漠に埋もれたオアシス都市・ニヤについて書いた。
『敦煌』執筆時、井上はまだ現地へ行ったことがなかったという。それにもかかわらず、あれだけ読み手を刺激する描写ができたというのは改めて感心する。その背景として、日本では西域研究の蓄積があり、井上はそれらを参照できたという点に注意しておく必要があろう。桑原隲蔵、白鳥庫吉、羽田亨といった人々も含め、いわゆる「東洋学」の碩学たちの名前を私が最初に知ったのも、井上靖や司馬遼太郎たちが西域について書いた文章を通してであった。私の中で広義の「東洋学」への関心はその頃から一貫して続いており、台湾研究をしている現在でもそうした意識は変わっていない。
書影は成功大学図書館所蔵のものを使った(上)。調べたら中国語訳も色々と出ており、石榴紅文字工作坊訳、劉慕沙訳、柯順隆訳、劉興堯訳、龔益善訳などがある(下の写真はその一部)。石榴紅文字工作坊訳の花田文化版(1995年)には鍾肇政が導読を書いている。鍾肇政は日本統治時代に生まれた台湾の作家で、戦後も文筆活動を継続、つい先週、95歳で亡くなられたばかりであった。
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