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2020年5月27日 (水)

【七日間ブックカバー・チャレンジ:六日目】 安彦良和『虹色のトロツキー』

【七日間ブックカバー・チャレンジ:六日目】
安彦良和『虹色のトロツキー』
 
 『虹色のトロツキー』は大学生の頃に読んで、はまった。主人公・ウムボルトは日本人とモンゴル人の混血で、旧「満洲国」の最高学府・建国大学に在籍していたという設定である。当時、ソ連から追われて海外亡命を余儀なくされていたトロツキーを建国大学教授に迎え入れようという構想は実際にあったらしいが、この作品では「トロツキー計画」をめぐる日本軍の謀略工作にウムボルトが翻弄される姿が描き出されている。1930年代の東アジアを舞台として、ウムボルトという一人の青年を縦糸としながら、民族的背景の異なる様々な人々が交錯していく。ウムボルトは架空のキャラクターだが、その他の登場人物の大半は実在していたから、この時代の歴史を勉強している者として、どのように描かれているのか、やはり興味が引かれるし、何よりも人物群像劇としてものすごく面白い。
 
 1930~40年代の日本というのは、ある意味、「脱国境」的な状況にあった。ただし、それは日本による対外侵略を背景としたものであったが。建国大学、あるいは旧「満洲国」における「五族協和」という理念を額面通りに受け止めるわけにはいかない。しかし、単に虚構に過ぎなかったとしても、それを生真面目に考えた人はいたし、またそれを一つの動力として様々な人間模様が繰り広げられていた。それこそ民族の壁をこえて信頼し合い、かと思ったら裏切られ、そしてぶつかり合う──そうした状況が、そこには悲劇があるからこそ、なおさらのことドラマの舞台として引きつけられるものを感じていた。
 
 「満洲」という土地は昔からずっと気になっていた。私が初めて観た「大人の映画」(という言い方は誤解されるかもしれないが、例えば「ドラえもん のび太の~」みたいなのではなく、文芸的映画と言ったらいいのだろうか)は、中学一年生の学年末だったか、私と同じく歴史に興味のある同級生と一緒に観に行ったベルトルッチ監督「ラストエンペラー」であった。その頃、映画上映に合わせて関連書籍も書店で並べられており、例えば、溥儀『わが半生』、レジナルド・ジョンストン『紫禁城の黄昏』、エドガー・スノー『極東戦線』など、よく分からないながらも手に取った。『わが半生』は前半の政治的動乱よりも、後半の獄中生活の方がむしろ面白く感じた記憶がある。いずれにせよ、私が東アジア近現代史に関心を持つようになった直接のきっかけは『ラストエンペラー』だったと言えるのだが、以来、「満洲」という土地がずっと私の脳裏に強い印象を残している。
 
 安彦良和には他にも『麗島夢譚(うるわしじま ゆめものがたり)』という作品がある。尻切れトンぽに終わってしまい、失敗作なのは残念だが、着眼点はとても良かったと思う。私が東アジア史で強い関心を寄せているのは、第一に1930~40年代であり、それは『虹色のトロツキー』であるが、第二に、16世紀後半から17世紀にかけての海洋アジア世界である。いずれも、民族的背景の様々な人物が動き回り、ぶつかり合う活劇の恰好な舞台として面白い。台湾史に関心を持つ者としても、実はこの二つの時代は極めて重要な意義を持つと考えている。そこに注目した安彦良和の着眼点にはやはりうならされた(結果的に期待外れだったとはしても)。
 
 『虹色のトロツキー』はいま、中央公論社から文庫版や愛蔵版も出ているようだが、私が買ったのは最初に出た潮出版社版だった。いま手元にないので、書影は割愛する。

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