【七日間ブックカバー・チャレンジ:五日目】 上山安敏『神話と科学──ヨーロッパ知識社会 世紀末~20世紀』
【七日間ブックカバー・チャレンジ:五日目】
上山安敏『神話と科学──ヨーロッパ知識社会 世紀末~20世紀』
上山安敏『神話と科学──ヨーロッパ知識社会 世紀末~20世紀』
人物群像劇の形で、ある時代相を描くという作品が私は大好きで、例えば、スチュワート・ヒューズ『意識と社会 ヨーロッパ社会思想1890~1930』とか、ピーター・ゲイ『ワイマール文化』、あるいは山口昌男の著作などを思い浮かべているのだが、一番印象に残っているのはやはり上山安敏『神話と科学──ヨーロッパ知識社会 世紀末~20世紀』である。学術書なのに、読み物としてめっぽう面白かった。
著者は本来、西洋法制史を専門としているが、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのいわゆる「世紀末」と言われた時代状況に分け入って、そもそも社会科学が成立した知的基盤を捉え返そうとする。いま手元に本書がないので詳細を確認できないのだが、きっかけは確か、バハオーフェンの母権論をめぐる探究から始まっていたのではなかったか。学術だけを切り離して考えるのではなく、文学や芸術も含めたトータルな時代性の中で、そこに底流する思潮が描き出されている。それだけでなく、当時のビッグネーム、例えばウェーバー、フロイト、ユング、バハオーフェン、ニーチェ、ベンヤミン、トマス・マン、ゲオルゲ、ヘッセ…等々、記憶に頼っているので書き漏らしもあるだろうが、こういった人々について博引傍証、豊富なエピソードを紹介しながら生き生きと論じているのが面白かった。個々の人物の名前はもちろん知っているし、ものによっては読んだこともあるが、こうした人々の同時代性を有機的に理解できたのは大きな収穫だった。とにかく専門分野を超えて時代性をたくみに描き出していく筆致に引き込まれた。
つまり、本書を読んで私が感心したのは、第一に、分野を超えて複数の人物を同時に論じながら、それらの人々が共通して関わっていた時代思潮を浮き彫りにしていくという描き方。第二に、かたい学術書であるにもかかわらず、エピソードが豊富で読み物としても面白かったこと。もし可能であるならば、別の題材でこういうものを書いてみたいという憧れを抱いた。上山とはテーマは全く異なるが、私は『民俗台湾』や台北帝国大学(とりわけ土俗人種学教室)などを題材として日本統治時代→留用→戦後への学知的継承というテーマに以前から関心があって、そこに関わった日本人、台湾人、中国人の人物群像をいずれ描いてみたいという希望があり、あのような形で学術の歴史を描くことができればいいなあと思う。
いま本書は手元にないので、書影は割愛する。
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