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2019年2月 2日 (土)

髙橋大輔『漂流の島──江戸時代の鳥島漂流民たちを追う』

髙橋大輔『漂流の島──江戸時代の鳥島漂流民たちを追う』(草思社、2016年)
 
 太平洋の孤島、鳥島。江戸時代、記録で判明している限りでは、6グループの漂流民が鳥島でサバイバル生活をくぐり抜け、生還した。その中には1841年に漂着し、アメリカ捕鯨船に救助されたジョン万次郎も含まれている。生還できなかった人々はひょっとしたらもっと多数に上るのかもしれない。彼らの漂流譚はやはり好奇心がそそられるのだろう、例えば井伏鱒二『ジョン万次郎漂流記』、織田作之助『漂流』、吉村昭『漂流』などの作品でも描かれている。
 
 著者はロビンソン・クルーソーのモデルとなったスコットランド人アレクサンダー・セルカークが漂流した南米チリの孤島へ行き、その住居跡を探し当てたことがある。その著者は次に鳥島を調査対象に選んだ。明治以降、アホウドリ捕獲のため、あるいは気象観測のため鳥島へ移住した人々もいたが、火山噴火の危険があり、またアホウドリ保護の名目から、現在ではアホウドリ調査や火山調査の専門家が時折滞在するのみで、渡航には管轄する東京都の許可が必要である。著者は文献を読み漁り、鳥島滞在経験者の話を聞き歩いて予備調査をしている中、山階鳥類研究所の作業に同行する形で2010年に鳥島へ渡ることができた。
 
 六日間ほどの鳥島滞在で洞窟などを見て回り、かなりの手ごたえを著者は得た。さらなる調査を期して次の計画を立てるが、東京都側から許可を得ることができず、二回目の調査は結局、不可能になってしまう。それでも、実地に島を見た体験をもとに、文献記録や滞在経験者の話を繋ぎ合わせ、江戸時代の漂流民の過酷なサバイバル生活を想像していくところは、推理小説を読むようにスリリングだ。調査計画は中途半端な形になってしまったにせよ、探検というのも一つの事業計画であり、企画を立ち上げ、協力者を探し、手がかりを求めて粘り強く試行錯誤するプロセスそのものに読み応えがある。

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