【映画】「ナチス第三の男」
【映画】「ナチス第三の男」
ナチス親衛隊のナンバーツーであったラインハルト・ハイドリヒ(Reinhard Tristan Eugen Heydrich、1904-1942)。親衛隊やゲシュタポのトップであったヒムラーの右腕として辣腕を振るい、ヴァンゼー会議を主宰していわゆる「ユダヤ人問題の最終的解決」を策定したことでも知られる。この映画は1942年に起こったハイドリヒ暗殺事件を焦点として、前半ではハイドリヒが冷酷な手段でのし上がっていく様子が、後半ではチェコスロヴァキア亡命兵による暗殺成功までのプロセスとナチスによる凄惨な報復のあり様が描かれている。
ハイドリヒはもともとエリート海軍士官であったが、女性関係のスキャンダルから不名誉除隊。失意の中、ナチスへ入党した。ヒムラーに見出されて親衛隊の諜報部門を任され、レーム粛清を主導し、ナチス内部で瞬く間に出世していく様子が映画前半で描かれる。国防軍将軍を脅してユダヤ人処理に協力させるシーンがあるのは、ならず者がドイツを乗っ取ったという捉え方を踏襲しているように見えるが、その是非については私はよく分からない。ベーメン・メーレン保護領(チェコ)副総督としてプラハへ赴任、暗殺の瞬間でいったん画面が止まり、次にイギリスから送り込まれたチェコスロヴァキア亡命兵の潜伏生活シーンへと切り替わる。
ヒムラーとレームを除くと、ヒトラーをはじめとしたナチス要人は映画中に登場せず、暗殺される者、暗殺する者、双方の人間模様にしぼってストーリーが構成されている。映画中の設定では、ハイドリヒは妻の勧めでナチスへ入党したことになっており、当初は妻が主導していたにもかかわらず、彼が出世するにつれてモンスターへと変貌していく様に妻は戸惑う。チェコスロヴァキア亡命兵は、潜伏生活の中で、支援者女性と当初は偽装の関係から本物の恋人関係へ発展していくが、暗殺が成功すれば、生きて帰ることはほぼあり得ない。それどころか、関係者には死の報復が待っている。人間性を失っていくハイドリヒ。関係者すべての死を覚悟した暗殺実行者の行動。それぞれ質は異なれど、ヒューマニティーが磨滅していく姿に、暗澹とした気持ちになってきた。原題は「The Man with the Iron Heart」(鉄の心を持つ男)となっており、これはヒトラーがハイドリヒを評した言葉とされるが、この映画では友や恋人の死までも覚悟して暗殺を実行した亡命兵たちもその対象に含めているのだろう。
原作はローラン・ビネ(高橋啓訳)『HHhHプラハ、1942年』(東京創元社、2013年)。タイトルは「Himmlers Hirn heißt Heydrich」(ヒムラーの頭脳、すなわちハイドリヒ)という表現に由来する。なお、監督はフランス人で、映画中での台詞は英語である。
【データ】
監督:セドリック・ヒメネス
2017年/フランス・イギリス・ベルギー/120分
(2019年1月31日、TOHOシネマズ・シャンテにて)
監督:セドリック・ヒメネス
2017年/フランス・イギリス・ベルギー/120分
(2019年1月31日、TOHOシネマズ・シャンテにて)
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