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2018年3月25日 (日)

伊達聖伸『ライシテから読む現代フランス──政治と宗教のいま』

伊達聖伸『ライシテから読む現代フランス──政治と宗教のいま』(岩波新書、2018年)
 
 フランスにおいて公教育の政教分離という考え方からムスリマのスカーフ着用の是非が大きな社会的・政治的論争となったことは日本でもよく知られているが、こうしたフランスのおける政教分離体制を「ライシテ」(laïcité)という。本書によると、次のように説明されている。
 
「宗教的に自律した政治権力が、宗教的中立性の立場から、国家と諸教会を分離する形で、信教の自由を保障する考え方、またはその制度のことである。法的な枠組みでもあるが、国民国家のイデオロギーとして、さまざまな価値観とも結びつく。それゆえ、ひとつの逆説として、宗教から自律しているはずのライシテ自体が、あたかもひとつの宗教であるかのような相貌で立ち現れてくる場合もあるだろう。」(15-16頁)
 
「もともとライシテは、共和派対カトリックの『二つのフランスの争い』の歴史のなかで発展を遂げ、その争いに調停をもたらす成果をあげたものである。政治的には左派の原理であった。」「ところが、1989年のスカーフ事件以降、ライシテはムスリム系移民の人権や統合の問題と絡めて論じられるようになった。2001年の9・11以降は、ムスリムに対する社会の視線がいっそう厳しくなり、多様性の共存よりも共和国への統合が強調されるようになる。それにつれて、右派がライシテを共和国の統合原理としていくようになる。」「このような状況のなかで、ライシテは左派内部の分断を明るみに出しかねないテーマとなる。左派には、宗教批判を共和国の精神と見なす者と、リベラルな立場から宗教的マイノリティの人権を重視する者がいるからである。」(13-14頁)
 
 本書はライシテをめぐる論点を歴史的背景から説き起こし、紆余曲折を経る中で、宗教と政治の領域を峻別する「分離のライシテ」から宗教の社会的・公共的な役割を認める「承認のライシテ」へ移行したことが指摘される。ライシテは、本来の理念から言えば多様な価値観・世界観を調整する法的枠組みとなるはずだが、実際には様々に矛盾もはらみ、ライシテの理念をもとに排除と統合も繰り返されて来た経緯も見えてくる。「カト゠ライシテ」というのは本書で初めて知った。「現代のライシテには、かつて敵対したカトリックをフランスの文化や伝統として取り込み、ナショナル・アイデンティティを強化するカト゠ライシテの論理があり、それがイスラームに対峙する構図が見られる」(90頁)と指摘される。第三章ではフランスにおけるイスラーム側からの多様な議論も紹介している。最終章ではケベックや日本を事例として、ライシテ概念をもとに政教構造の国際比較の可能性も提示している。

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