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2018年2月23日 (金)

末木文美士『思想としての近代仏教』

末木文美士『思想としての近代仏教』(中公選書、2017年)
 
 本書はもともと別の媒体に発表されていた論考を集めた論文集の形をとるが、個別論点を通して日本近代思想史における仏教の位置づけを捉える視座を提供してくれる。序章に「伝統と近代」を置いて全体的な見通しを示し、「Ⅰ 浄土思想の近代」では清沢満之と倉田百三、「Ⅱ 日蓮思想の展開」では田中智学と創価学会の理論家だった松戸行雄を取り上げ、「Ⅲ 鈴木大拙と霊性」、「Ⅳ アカデミズム仏教研究の形成」では仏教研究の展開を論じ、「Ⅵ 大乗という問題圏」という流れで構成されている。
 
 私が関心を持った論点は次の通り。序章ではいわゆる「葬式仏教」の重要性を指摘した上で、「近代日本が天皇中心の家父長制的体制を基盤として形成される中で、仏教もまたその一翼を担い、葬式仏教としてその体制を支えた。それに対して『近代仏教』は、近代の先端的な言説に食い込もうとする知識人の営みとして理解することができる」(40頁)とする。田中智学については、国体論と『法華経』優越が並立しており、「智学の国体論は、多くの主流の国体論と大きく異なり、あくまで仏教の立場を譲らず、国体論そのものを解体しかねない異端的な要素を強く持っていた」(163頁)という指摘に興味を持った。息子の里見岸雄はそうした智学における仏法と国体の二元的矛盾を整理して首尾一貫したものにしたが、そのため矛盾ゆえの可能性を消してしまったと指摘される。「仏教研究方法論と研究史」は近代日本における仏教研究史となっており、分かりやすい。「大乗非仏説論から大乗仏教成立論へ──近代日本の大乗仏教言説」では村上専精の大乗非仏説論と宮本正尊の大乗仏教論が論じられるが、後者の時局性が目を引いた。

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