【映画】「リップヴァンウィンクルの花嫁」
【映画】「リップヴァンウィンクルの花嫁」
岩井俊二監督の新作「リップヴァンウィンクルの花嫁」がなぜか台湾で先行上映されており(日本では3月26日より開映)、長年、岩井作品を見続けてきた者として観に行かないわけにはいかない。いま住んでいる台南では上映していないので、隣の高雄までわざわざ足を運んで観てきた。
派遣教員の仕事をクビになった七海(黒木華)は、SNSで出会った夫との新婚生活も破綻。両親も離婚寸前で、帰るところはない(実家は3・11大地震の被災地であったことがほのめかされる)。仕事も居場所も失って途方に暮れる彼女の前に、やはりSNSで知り合った安室(綾野剛)が現われ、不思議なアルバイトを紹介される。
親戚が少ない婚家が挙式に当たって体面をつくろうため呼ぶサクラのアルバイトを七海はやってみた。かき集められた年齢も違うバイト仲間たちと偽装家族を演じたところ、お互い初対面であるにもかかわらず何となく楽しげ。七海も久しぶりに笑顔を見せる。そうした仮想の家族は、破綻した新婚生活、離婚寸前の両親と対比されると、家族なるものの脆さを強調しているかのようにも見えてくるが、むしろこれは家族という関係性の可変性、代替可能性を示していると捉えられる。バイトで知り合った真白(Cocco)はガンに冒されて死期が迫っていたが、七海はそのことを知らず、彼女と仮想の婚姻を結び、死のその時までずっと寄り添っていた。心中したと勘違いした安室が、屈託なく目を覚ました七海を見て驚くシーンはコミカルだが、愛する者を失って自分ひとり生き残っても自責の念にかられる必要はないというメッセージであろうか。
安室という胡散臭いが、どことなく信頼もできそうな不思議な二面性を持った「何でも屋」のキャラクターが面白い。七海の新婚生活が破綻するよう画策したのは実は安室なのだが、彼女にアルバイトを紹介して助けてやるのもまた彼である。物語を展開させるトリックスターの役回りを果たしているが、彼の意図はよく分からない。いや、そもそも予想外の展開に彼自身驚いている節もあるが、それでも自然に流れのままに泳いでいく。あるいは、不条理な運命そのものを体現しているのか。運命はときに残酷だが、ときに温かく手を差し伸べることもある。ウブで間抜けな七海は、自分を気まぐれに翻弄する不条理に泣きながら、意外と芯の太さも見せ、誠実な態度でしぶとく自分の人生を築き直していく。
【データ】
監督・原作・脚本:岩井俊二
2016年/日本/180分
(2016年3月15日、高雄大遠百・威秀影城にて)
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