下斗米伸夫『プーチンはアジアをめざす──激変する国際政治』
下斗米伸夫『プーチンはアジアをめざす──激変する国際政治』(NHK出版新書、2014年)
一部メディアで「新冷戦」という表現も用いられる近年の国際政治の中でロシアはどのような外交政策を進めていくと考えられるのか。本書はウクライナ情勢、ロシア外交のロジック、そして外交政策を実質的に取り仕切るプーチン大統領個人の考え方を分析した上で、「脱欧入亜」という特徴を指摘する。なお、ロシアの「東方シフト」についてはドミートリー・トレーニン(河東哲夫・湯浅剛・小泉悠訳)『ロシア新戦略──ユーラシアの大変動を読み解く』(作品社、2012年)でも指摘されている(こちらを参照のこと)。
ロシアが「東方シフト」を進める背景は何か。第一に、プーチン大統領の個人的背景に注目される。彼の家系をたどると異端とされた「古儀式派」にあるとされ(下斗米伸夫『ロシアとソ連 歴史に消された者たち──古儀式派が変えた超大国の歴史』[河出書房新社、2013年]を参照。こちらで取り上げた)、古儀式派にはもともと東方志向があったとされる。また、彼には保守主義やユーラシア主義の思想的影響も見られるという。第二に、ロシアの人口は西に偏っているのに対し、資源は東に偏っており、シベリアから沿海州にかけての将来性をにらんで開発政策を進めている。第三に、世界経済の中心が大西洋から太平洋へ移りつつある中で東アジアとの関係構築が重要となっているが、他方で中国の台頭への安全保障上の警戒心も挙げられる。
ロシア経済では資源輸出の比重が高く、経済の近代化・多角化が必要とされているが、ウクライナ情勢等の影響でそのために必要な支援を欧米から受けるのは難しい。中国は市場としては魅力的だが、必要な技術的支援は見込めない。そこでプーチン政権が最も期待しているのが日本だという。プーチン政権は、日本に対して時に強硬姿勢を取るように見えることもあるが、基本的には日本重視の姿勢が見られ、北方領土問題解決の意欲を持っていると指摘される。
私自身の関心としては、現代ロシアの外交戦略にもユーラシア主義の思想的影響が色濃く表れているという点が目を引いた。ユーラシア主義についてはこちらで浜由樹子『ユーラシア主義とは何か』(成文社、2010年)を紹介しながら触れたことがある。
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