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2014年12月18日 (木)

多田井喜生『昭和の迷走──「第二満州国」に憑かれて』

多田井喜生『昭和の迷走──「第二満州国」に憑かれて』(筑摩選書、2014年)

  戦争遂行に必要な条件は軍事、外交、財政。日本が中国大陸での侵略戦争を進めるにあたって財政面ではどのように資金調達を行っていたのか。本書によれば、朝鮮銀行の創案した「預け合」という錬金術的なからくりが活用されていたという。「“預け合”とは、日本円勘定で朝鮮銀行に振り込まれる華北の軍事費を、朝鮮銀行が現地に設立した中国連合準備銀行との預け合契約によって連銀券を調達して現地軍に支出し、手元に残る日本円は国債購入に回して国庫に還流させる仕組み」である(15頁)。

  このからくりを使えば好きなだけお金を引き出すことができる。それは同時に、現地経済でハイパーインフレを引き起こすことでもある。日本経済へもたらされる経済的混乱は相当なものになるはずだが、「明治期に大陸に渡って通貨戦争を繰り広げた日本円は、本土→朝鮮・台湾→満州・北支・中支という植民地銀行による障壁を二重、三重に準備して、本土=日本銀行券を擁護する体制を作り上げていた」(181頁)。昭和20年8月末時点で日本の占領地域における通貨発行高を見ると、障壁に守られた日本銀行券はわずか5.4%を占めるのみであったという。現地の経済的犠牲を踏み台にする形で、戦争を行った当の日本は敗戦後の経済的混乱を回避できたことになる。

  そもそもの発端は、大陸への進出を図る朝鮮銀行の思惑にあった。満洲経営を足掛かりに中国大陸を金建ての円経済圏に組み込もうと目指す朝鮮銀行をはじめとした大陸積極論。これに対して当時の高橋是清蔵相は、満州においてはもともと中国で行われていた銀建てを基本とする方針を主張、これには円ブロックの拡大という形で大陸侵略へ踏み込んでしまうのを抑止しようという信念があった。しかしながら、世界恐慌の影響で銀貨が高騰する中、満州も銀本位制から離脱せざるを得ず、さらに1936年の二二六事件で高橋は殺害されてしまう。

  こうした財政面における大陸積極論の立役者の一人が、第二代朝鮮銀行総裁を務めた勝田主計(後に蔵相)であった。彼は単に財政専門家であるだけでなく政治にも深く関わり、森伝や浅原健三といった政界フィクサー的な人物も彼の家を頻繁に訪れていた。本書は、勝田の残した日記等の史料を活用しながら、円ブロック拡大を目的とした「第二満州国」の創出、いわゆる華北分離工作を進めるために政変を画策する動向を描き出している。

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