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2014年12月14日 (日)

最近読んだ台湾の中文書3冊

  台湾で最近刊行された本を3冊、別館ブログ「ふぉるもさん・ぷろむなあど」にて紹介した。

鍾明宏《一九四六──被遺忘的台籍青年》(沐風文化出版、2014年)
  日本敗戦の1945年から中華人民共和国が成立する1949年に至るまでの激動期、海峡両岸をまたがって様々な人の動きがあった。本書で取り上げられるテーマは1946年に中国大陸へ渡った台湾人留学生。台湾海峡が分断されて帰れなくなった後、双方の政治的事情からタブーとなって、その存在が歴史の暗闇の中に消えてしまった人々も多い。著者は大陸でも調査を繰り返し、こうした悲劇的な人々の記憶を遅まきながらも掘り起こそうとした労作である。中には日本と密接な関わりがある人々もいる。詳しくはこちらを参照のこと。

蕭文《水交社記憶》(臺灣商務印書館、2014年)
  台南の市街地の南側に「水交社」と呼ばれる一角がある。日本の近代史に関心がある人なら、旧日本海軍将校の親睦組織を想起するだろうが、この地名はまさにその「水交社」に由来する。自身も「水交社」で育った著者は、ここに日本海軍航空隊が来る以前の歴史から戦後の眷村における生活光景まで史料を調べ上げ、当時を記憶する老人たちへのインタビューをまじえながら「水交社」という土地の変遷を丹念に描き出している。台湾を特徴づける歴史的重層性が、この「水交社」という限られた区域からも如実に見えてくるのが面白い。詳しくはこちらを参照のこと。

蘇起《兩岸波濤二十年紀實》(遠見天下文化、2014年)
  本書は1988年の蒋経国死去による李登輝の総統就任から2008年の馬英九の総統当選までの二十年間にわたり、時に一触即発の危険性をはらんできた中台関係を分析している。著者は政治学者で、基本的な立場は「統一」でも「独立」でもなく、「現状維持」によって中国と衝突する危険性を回避する方策を求める点にある。著者自身が国民党政権のブレーンとして両岸政策の策定に関わった経験が本書に盛り込まれているが、本書中の記述に国民党名誉主席・連戦が中国共産党側に情報を漏らしたと推測される箇所があることが台湾のマスコミで報道された。詳しくはこちらを参照のこと。

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コメント

《一九四六──被遺忘的台籍青年》は未読ですが、陳弘に関する記述は興味深いですね。彼は基隆中学のF-マン事件では、つかまっていません。父親の職業が影響していると思われます。私が『台湾人と日本人 基隆中学「F-マン事件」』で取材したときには、父親の件はオフレコにしてくれとのご本人の希望でそうしました。けれどその結果、いくつかの重要な事実が闇に葬られたのかも知れないと、複雑な気持ちです。とにかく近々読んでみたいと思います。

投稿: 田村志津枝 | 2015年2月25日 (水) 21時18分

田村さま、わざわざコメントをいただきまして恐縮です。
該当箇所を再確認してみましたら、私の読み違いでした。正確には、27人中5人が逮捕され、その他の学生は無期停学となり、台湾で進学できなくなった陳弘は日本へ留学した、ということですね。ご指摘いただきましてありがとうございました。
オフレコの問題は確かに難しいですね。当人が公にしたがらないことを暴き立てるわけにはいきませんし…。

投稿: トゥルバドゥール | 2015年2月26日 (木) 01時15分

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