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2014年9月19日 (金)

廣瀬陽子『未承認国家と覇権なき世界』

廣瀬陽子『未承認国家と覇権なき世界』(NHKブックス、2014年)

  紛争が膠着状態に陥りつつあるウクライナ情勢。親ロシア派が多数を占めるクリミア半島はクリミア共和国として独立宣言をした後にロシアへ併合され、同様に東部ではドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国が独立を宣言し上でノヴォロシア人民共和国連邦を結成した。それぞれ「共和国」を名乗ってはいても、国家として認知したのはロシアだけ。このように自ら主権国家と宣言しながらも国際的な承認を受けていない自称「国家」を「未(非)承認国家」という。

  ウクライナ情勢のケースからもうかがわれるように、多民族状況において不満を感じたマイノリティーが自前の国家を持つことを求める(もしくは隣の同族との統合を求める)際に「未承認国家」がしばしば現れる。民族紛争が収まらない現代の国際情勢を見渡す上で必須のキーワードと思われるが、なかなか適切な解説書が見当たらなかった。

  そもそも「国家とは何か?」という問いに一言で答えるのは困難だが、一般的にはモンテヴィデオ宣言で示された領土、国民、主権という3要件が必要とされる。こうした要件を備え、外交的な働きかけをしながらも国家承認を受けられない状態の「国家」が「未承認国家」となる。「未承認国家」は民族自決の原則を踏まえて自らの権利を主張する。他方で、国際社会は現行のシステムの変更に伴う混乱を避けるため、むしろ領土保全の原則の方を優先させる傾向がある(ただし、第一次世界大戦後、第二次世界大戦後、冷戦終結後の時期は逆に民族自決の原則を優先させる風潮があった)。

  他方で、コソヴォが欧米から国家承認を受けたケースは「パンドラの箱をあけてしまった」と本書では指摘されている。欧米は領土保全の原則を堅持して基本的には「未承認国家」の国家承認には消極的だが、コソヴォに関しては例外として認めてしまった。こうしたダブルスタンダードは、その後、ロシアが自らの戦略上の事情からグルジア内部のアブハジアと南オセチアを国家承認した際に自己正当化の理由にも使われてしまう。

  かつてはパトロン国家の傀儡政権(例えば、旧「大日本帝国」が作り上げた「満洲国」)となる場合も多かったが、近年はパトロン国家の意向にかかわらず独自の主張で動くケースも増えている。「未承認国家」では権威主義的支配が敷かれ、闇経済が跋扈するなど多くの問題が見られる一方で、住民からの支持を調達し、対外的に正統性をアピールする必要から民主化・自由化に向けて努力するケースもあるというのが興味深い。具体例としてはコソヴォと台湾が挙げられている。

 「未承認国家」の生成原因や内実はケース・バイ・ケースで一般論はなかなか難しいし、解決方法も模索状態だ。「共同国家」という提案もあるようだが、極端な話、現状維持が最も現実的という悲観的な考え方もあり得る。

  著者はコーカサスをはじめ旧ソ連地域の研究者であり、この地域には「未承認国家」が多数出現している。本書は主に旧ユーゴのコソヴォ、旧ソ連モルドヴァの沿ドニエストル共和国、アルメニア・アゼルバイジャン紛争の焦点となっているナゴルノ・カラバフ共和国、グルジア紛争といった具体的な事例の経過を検討しながら、この問題の複雑な難しさをヴィヴィッドに描き出し、より広いコンテクストで把握するためのたたき台となる議論を提示してくれている。

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