庄司達也・中沢弥・山岸郁子・編『改造社のメディア戦略』
庄司達也・中沢弥・山岸郁子・編『改造社のメディア戦略』(双文社出版、2013年)
大正・昭和初期という時代は、出版メディアの拡大・変容が著しかったという点でも大きな画期をなしている。とりわけ目立つのが、いわゆる「円本」であろう。火付け役は改造社の山本実彦。改造社が出した『現代日本文学全集』(1926~31年)は予約販売、1冊1円、毎月刊行という方式で、文学という教養を一般大衆へ大々的に売り込むことに成功した。売上の低迷に悩んでいた山本が、ある意味バクチのように起死回生で打ち出した奇策であったが、これが売れた。他社も追随して様々な企画が登場し、いわゆる「円本ブーム」は出版史上でも特記されることになる。
もちろん、単に山本のアイデアが当たったというだけの話ではない。流通網・通信網といったインフラや売り込みを受け入れる消費社会的状況など、こうした大量出版を可能にする社会的条件がすでに成立していたわけである。
本書は改造社をメインに据えて当時の出版メディアについて様々な論点から迫ろうとしている。目次を示すと次の通り。出版社の思惑だけではなく、書き手である文壇の雰囲気なども垣間見えて興味深い。
・「昭和改元前後における『改造』の変容──円本ブームをもたらしたもの」(杉山欣也)
・「改造社の文学事業」(山岸郁子)
・「拡散する「円本」状況」(松村良)
・「「探偵小説」の現在との接続──円本時代における「文学全集」概念の変容」(山口直孝)
・「改造社「『現代日本文学全集』講演映画大会」という戦略」(庄司達也)
・「文芸映画の時代と雑誌『改造』」(中沢弥)
・「『改造』掲載作品に対する『文芸時代』の合評会」(須藤宏明)
・「〈懸賞作家〉にとっての『改造』──『改造』懸賞創作第四回当選者・田郷虎雄を中心に」(和泉司)
・「『女性改造』という媒体──芥川龍之介「白」発表の周辺」(平野晶子)
本書の後半では関連する資料も掲示されており、文学史・思想史などに関心があれば眺めているだけでも面白い。今後は改造社ばかりでなく、同時代の他社の動向も合わせて複眼的な考察が進められていけば、いっそうこの時代の興味深い論点が見いだされていくだろう。
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