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2013年2月10日 - 2013年2月16日

2013年2月15日 (金)

周婉窈『増補版 図説 台湾の歴史』

周婉窈(濱島敦俊監訳、石川豪・中西美貴・中村平訳)『増補版 図説 台湾の歴史』(平凡社、2013年)

 版元からは早い段階で刊行情報は出ていたものの、遅れに遅れて、台湾史に関心を持つ人々をやきもきさせていたが、ようやく出た。私自身は原書の《台灣歷史圖說 増訂本》(聯經出版、2009年)をすでに読んでいたが(→こちらで取り上げた)、書店でこの日本語訳を見つけ次第、早速購入した。パラパラ流し読みしたところ、訳文はこなれていて読みやすい。図版も豊富で、台湾史の概略を知りたいという人には本書をお勧めする。

 台湾史の概説的な本は日本でもいくつか刊行されているが、それらがおおむね大陸から渡来した漢族の動向を中心としているのに対して、本書では従来の「漢族中心史観」では無視されてきた原住民族について先史時代から説き起こしているのが一番の特徴である。さらにスペイン、オランダ、日本など外来の支配者の存在も合わせ、台湾史の重層的性格がくっきりと浮かび上がってくる。

 今回の増補版までの経緯はちょっと複雑だ。台湾で刊行された初版本(1997年)はこの訳書で言うと第1~9および12章で構成されていた。日本語訳の初版(2007年)が出たときに戦後篇「ポストコロニアルの泥沼」が加筆されたのだが、この部分の中国語版が増訂本(2009年)に収録されるまでにタイムラグがある。国民党政権下、台湾で二二八事件や白色テロについて語ることは重大なタブーであった。台湾での初版が刊行された1997年の時点では、戒厳令が解除(1987年)されてからまだ日も浅く、戦後史についての研究蓄積が不十分だったという事情がある。また、台湾の増訂本で追加された第10章「知識人の反植民地運動」と第11章「台湾人の芸術世界」は今回の増補版で日本語でも読めるようになった。

 本書の第7~12章は日本と関わりがある。国民党政権の時代は、日本統治期の研究についても制約が大きかった。著者が1981年にアメリカへ留学したのは、そうした歴史の空白を埋めるためには台湾から離れなければ研究できないという事情があった。著者による日本統治期の研究としては《海行兮的年代──日本殖民統治末期臺灣史論集》(允晨文化出版、2003年、日本語では『「海ゆかば」の時代』となる→こちらで取り上げた)があるが、日本の近現代史とも密接に関わるテーマなので、中国語が苦にならない人には一読をお勧めしたい。

 今回の増補版で追加された第10章「知識人の反植民地運動」のテーマは台湾議会設置請願運動である。一般の日本人には馴染みが薄いかもしれないが、非暴力の反植民地闘争として注目される。著者には《日據時代的臺灣議會設置請願運動》(自立報系文化出版部、1989年)という研究があり(→こちらで取り上げた)、日本では若林正丈『台湾抗日運動史研究』(増補版、研文出版、2001年)が代表的である。

 私自身が一番関心を持っているのが、第11章「台湾人の芸術世界」だ。水牛をモチーフとした彫刻家の黄土水と音楽家の江文也をとっかかりに、台湾の芸術史が簡潔にまとめられている。ツォウ族出身の高一生、プユマ族出身の陸森宝という原住民出身の音楽家のことを私が初めて知ったのも本書であった(なお、高一生については、画家の陳澄波と合わせてこちらで取り上げた)。台湾の美術史については、森美根子『台湾を描いた画家たち──日本統治時代 画人列伝』(産経新聞出版、2010年→こちらで取り上げた)が格好な手引きとなる。

 本書では霧社事件についても多くのページが割かれているので、近日公開予定の映画、魏徳聖監督「セデック・バレ」の予習にも使える。

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