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2013年7月21日 (日)

今野晴貴『生活保護──知られざる恐怖の現場』

今野晴貴『生活保護──知られざる恐怖の現場』(ちくま新書、2013年)

 生活保護のサイクルをおおまかに捉えると、①申請→②保護の開始→③保護の終了となるが、それぞれについて①申請を受け付けない「水際作戦」、②受給者の人格を否定するハラスメント、③無理やり追い出しを図る、といった問題がある。役所の窓口や現場のケースワーカーの裁量によるところが大きく、明らかに違法なケースが多々見られるが、具体的な実態は本書を読んでもらいたい。もちろん、真摯に良心的な取り組みをしているケースワーカーもいるが、担当者が誰であるか、その自治体の姿勢がどうであるかによって運不運が左右されてしまう。

 ここのところ、不正受給をめぐる報道がなされ、某政党の一部議員には生活保護バッシングの言動も目立つ。しかし、実際には資産を使い果たしていなければ支給は開始されず、コスト削減のため追い出しを図る行政の実態がある。印象論ばかりが先行して議論が進んでしまうことにはやはり不安を感じざるを得ない。

 生活保護は最後のセーフティーネットと位置づけられる。単に困窮者の救済というのではなく、自立した生活へと軌道に乗せるよう支援していくところに本来の意義を持つ。生きて働いていく一番の源泉は尊厳であろう。しかし、怠惰な落伍者というレッテルを張られて尊厳を奪われてしまうことで自立に向けた気力がますます損なわれてしまうという悪循環がある。

 社会の再活性化のためには人材が必要であり、再び仕事をしていける方向へ向けた支援が機能していないならば、近視眼的なコスト削減がより大きな社会的コストへつながってしまう矛盾の方が深刻である。そもそも、社会的なひずみから本人の意図とは関係ない次元で困窮してしまうケースがある。働けなくなったら生きていけないという絶望は社会的な不安定感を大きくする。問題の圏域は生活保護という制度そのものにあるのではなく、より広い社会政策を構想する上で本書が提起している問題点を汲み取っていく必要がある。

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