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2013年6月16日 (日)

【雑感】張良澤・作、丸木俊・画『太陽征伐──台湾の昔ばなし』

張良澤・作、丸木俊・画『太陽征伐──台湾の昔ばなし』(小峰書店、1988年)

 少々古い絵本だが、「世界の昔ばなし」シリーズの1冊。前半は原住民族の伝説を、後半は平地の漢民族の伝説を昔話風にリライトしている。台湾の主だった伝承を手軽に知ることができる。

 昔、二つの太陽があった。昼夜を問わず照り続けるため、疲れ果てた人々は、片方を弓矢で射落とそうと考えた。選ばれた勇者たちは、はるかかなた、太陽を求めて歩き続けるが、中途にして力尽きて倒れていく。太陽征伐の使命は次の世代に引き継がれ、ようやくにして射落とすことに成功した──本書の表題作は、台湾原住民の一つ、タイヤル族に伝わる伝説である。

 この話は、以前に読んだ黄煌雄《兩個太陽的臺灣:非武裝抗日史論》(台北:時報出版、2006年)という本で知っていた(→こちらで取り上げた)。黄煌雄は蒋渭水の評伝も書いており、サブタイトルから分かるように、日本統治時期台湾における民族運動史をテーマとしている。「二つの太陽」という表現には、日本という支配者=政治勢力と、台湾在住漢民族という被支配者=社会勢力と二つの太陽が台湾には輝いている、しかし二つの太陽が並び立つことはできず、いずれかが射落とされなければならない、という意味合いが込められており、これは賀川豊彦が台湾について原住民の神話を引きながら書いた文章に由来するそうだ。賀川は何度か台湾へ伝道旅行に出かけているから、その折に「太陽征伐」の伝説を耳にしたのだろうか。「太陽征伐」のモチーフそのものは、北米インディアンなどの伝説にも見られるらしい。

 パスタアイ(矮人祭)はサイシャット族に現在も伝わる祭礼だが、肌が黒く、背丈の小さな先住民・タアイにまつわる。彼らは農耕など先進的技術を教えてくれたが、悪さも過ぎたため、あるとき、皆殺しにされてしまった。タアイの霊を慰めるために行われるようになったのがパスタアイだと言われている。色黒の小人を皆殺しにしたという伝承は台湾各地にあり、例えば、そうしたヴァリエーションの一つが伝わる小琉球の烏鬼洞を私も以前に訪れたことがある(→こちら)。

 娘が鹿と婚姻を結び、それを知った父親が鹿を殺してしまったというアミ族の説話は、柳田國男『遠野物語』にも見えるオシラサマの伝承と似ている。ちなみに、台湾の人類学的調査で知られる伊能嘉矩は遠野の出身である。蛇足ついでに書くと、藤崎慎吾『遠乃物語』(光文社、2012年)は、台湾から戻った伊能と、『遠野物語』の語り部となった佐々木喜善の二人を主人公にイマジネーションをふくらませた小説である。

 台湾各地にある城隍廟に入ってみると、背高ノッポとおチビさんの二人組みの神像が印象に強く残る。七爺八爺、ノッポの七爺は謝将軍、背の低い八爺は范将軍、という。二人はもともと親友同士だったが、ある日、橋のたもとで待ち合わせたとき、七爺は事情があって戻って来れなかった。やがて大雨で川が氾濫し、友は必ず戻ると信じていた八爺はそのまま溺れ死んでしまった。そのことを知った八爺は責任を感じて自殺してしまう。こうした二人の関係は信義の象徴として神に祭り上げられた。七爺がアッカンベーしているのは首吊りしたから。八爺の顔が赤黒いのは水死したから。そう言えば、黄氏鳳姿『七爺八爺』という作品があったが、私はまだ読んでいない。黄氏鳳姿は日本統治時代の台湾でその文才を池田敏雄によって見出され、綴方教室で有名な豊田正子と同様の天才少女として知られるようになった人。

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