« 川田稔『戦前日本の安全保障』 | トップページ | 石弘之・石紀美子『鉄条網の歴史──自然・人間・戦争を変貌させた負の大発明』 »

2013年4月15日 (月)

土屋大洋『サイバー・テロ 日米VS.中国』

土屋大洋『サイバー・テロ 日米VS.中国』文春新書、2012年

 タイトルはやや扇情的だが、別に中国を仮想敵とみなした論陣を張っているわけではない。一般論としてサイバー攻撃のあり得る問題点について一通り見渡すには手頃な内容となっている。以下はメモ。

・国民で電子マネーが普通に行き渡るなど世界でも有数の電子立国を進めているエストニア。大量のアクセスによってサーバーをダウンさせる分散型サービス拒否攻撃(大量迷惑兵器)をロシアから受けた。先進的であればあるほお、情報通信の根幹がやられると社会生活が止まってしまう恐れ。

・サイバー攻撃は人間を直接殺すわけではない。本当に脅威となるのは、通信システムに対するサイバー攻撃と通常兵器による攻撃とが組み合わされた場合である。例えば、イスラエル軍がシリアの核疑惑施設を攻撃した際には、サイバー攻撃で防空監視システムをダウンさせた上で実施されたと言われる。また、イランの核施設を狙ったスタックスネットの例も挙げられる。人工衛星を動かすにも、軍隊を動員するにも通信機能は欠かせない。その意味で現代の戦争は通信システムなしに行うことは不可能だが、それが一つの弱点にもなり得る。例えば、アメリカのステルス無人偵察機がイランに捕獲されたケースでは、遠隔通信で動いているので通信環境からのっとられたる可能性がある。

・サイバー攻撃がこれまでの攻撃と本質的に異なるのは、攻撃があったことすら相手に感づかれないまま被害を与えられること。攻撃主体が匿名の非対称的存在。また、サイバー・パワーは知識と技能さえあれば大国政府のサーバーを攻撃できる。その点でパワーの分散という特徴をジョゼフ・ナイは指摘している。

・冷戦時代の核抑止論は合理的計算のできる政治主体としての米ソ双方の共通理解のもとで成り立っていた。ところが、サイバー戦争では、互いの手の内をひたすら隠し続ける。

・中国人民解放軍にもサイバー軍があり、アメリカにある法輪功関係のサーバーへの攻撃を実演した番組が放映された。中国でサイバー攻撃を行うのは誰か? ①愛国無罪を唱える若者たち。②商業的な利害から機密情報を取得しようとする者。③国家安全保障・軍事的な意図を持つ場合。軍事系でサイバーセキュリティに関係するのは人民解放軍総参謀部第三部。「網軍」は「藍軍」とも言われる。中国の党国体制が長期的に目指す社会的秩序の維持と順調な経済発展という二つの目標を維持できるかぎりは検閲を続けながらもインターネット利用を許可するだろう。逆に言えば、前者の目的を維持するため検閲は今後も精緻化されるだろう。

・調達部品に偽者が紛れ込み、そこにリモートコントロールできる仕掛けがある可能性。また、重要インフラストラクチャーへの攻撃の懸念、海底ケーブルのセキュリティなどにも注意する必要がある。

・サイバー攻撃について国際法上の合意はできていない。ITをめぐる法制度は各国バラバラで、法管轄の壁があるため国際協力の可能性は低い。

・高度な技術はビジネスで稼げるので、政府や軍隊にそうした人材は少なく、どこの国でもサイバー攻撃を仕掛けるのは民兵・傭兵。ギークをいかに政府の味方につけるか。

・専守防衛の日本では、サイバー防衛としてどこまでできるのか。陸上自衛隊のシステム防護隊、海上自衛隊の保全監査隊、航空自衛隊のシステム監査隊のいずれも、国民の生命や財産、国土の安全を守るのではなく、自衛隊の指揮通信などのシステムを守る任務しか与えられていない。

|

« 川田稔『戦前日本の安全保障』 | トップページ | 石弘之・石紀美子『鉄条網の歴史──自然・人間・戦争を変貌させた負の大発明』 »

政治」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/197828/57181649

この記事へのトラックバック一覧です: 土屋大洋『サイバー・テロ 日米VS.中国』:

« 川田稔『戦前日本の安全保障』 | トップページ | 石弘之・石紀美子『鉄条網の歴史──自然・人間・戦争を変貌させた負の大発明』 »