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2013年2月21日 (木)

『日本人、台湾を拓く。──許文龍氏と胸像の物語』

『日本人、台湾を拓く。──許文龍氏と胸像の物語』(まどか出版、2013年)

 自ら創業した奇美実業を町工場からABS樹脂生産では世界的な規模を誇る大企業にまで育て上げ、台湾における高度経済成長を支えた一人とも言うべき許文龍。日本の植民地統治を肯定的に評価していることでも知られているが(ただし、本書に寄せた序文では、植民地時代の差別的な待遇をあげて、必ずしも良い時代ではなかった、とも言っている)、台湾の発展に貢献した日本人の胸像を自ら製作して、ゆかりの地に寄贈しているという。本書は、有名無名を問わず、そのように顕彰された人々を列伝風に取り上げている。

 台湾におけるインフラ整備や産業開発の基本路線をまとめた後藤新平。糖業振興の方向性を立案した新渡戸稲造(海外視察から戻ったばかりで台湾の実情を調べる前に後藤から意見書を出すよう求められたというエピソードが面白い。実態を知ってしまうと視点が低くなってしまう。学者には理想論を出させ、それを現実に合わせる方法は後藤たち政治家や行政官が考える、という役割分担を意図していたようだ)。スコットランド人の専門家バルトンと共に近代的な上下水道事業を担い、公衆衛生の向上に貢献した浜野弥四郎。生態系バランスを考えた先進的な環境型ダム、二峰圳を整備した鳥居信平。烏山頭を建設し、嘉南大圳を整備、水利環境を飛躍的に向上させた八田與一(生前に彼の銅像は建てられていたが、その後の運命をめぐるエピソードが興味深い)。蓬莱米を開発した磯永吉と末永仁。台湾電力社長として電力事業を手がけた松木幹一郎。台湾紅茶を育てた新井耕吉郎。戦争中、日本人最後の台南市長として台南の文化財を守った羽鳥又男。

 台湾における人物伝を軸とした産業開発史として興味深く読んだ。私のような文系人間には、工学・農学などの知識をそのまま説明されてもなかなか飲み込めないが、ある意味、「プロジェクトX」的にその事業に取り組んだ人物の情熱を絡めて描かれるとヴィヴィッドな関心が喚起されてくる。

 日本の植民地統治期にこうした人々の努力によって台湾の産業基盤が整備されたのは確かである。他方で、それはあくまでも植民地統治を効果的に進めるためにやったことで、台湾人のためにやったわけではない、と言われたらやはり否定はできず、日本人として安易な認識は禁物であろう。むしろ、こうした両側面が絡まり合っているところに台湾史の重層的な性格の一端が浮かび上がっている。

 ただ言えることは、現場で自らの事業に取り組んだ人々のひたむきな努力には民族や国籍の相違は関係ない。今ではすでに時代遅れになってしまったかもしれないが、職人的、「ものづくり」的な使命感や情熱を、本書の行間から読み取れるかもしれない。 

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