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2012年7月15日 - 2012年7月21日

2012年7月17日 (火)

木宮正史『国際政治のなかの韓国現代史』

木宮正史『国際政治のなかの韓国現代史』(山川出版社、2012年)

 冷戦構造において南北分断という形で成立した韓国と北朝鮮は、悲願の南北統一に向けてどちらが主導権を握るのか、互いに自国の政治的正統性を主張して競争しあう関係にあった。1940年代において両者のスタートラインはほぼ同じ、むしろ日本の植民地統治期に形成された重工業は北部に偏り、南部は貧しい農村地帯であったことを考えると北朝鮮の方が有利だったとすら言えるわけだが、現在では韓国の圧倒的な優位となっていることは周知の通りである。

 なぜこれほどまでに差が開いていったのか? 同盟の地政学的要因や指導者の個性など色々な理由が考えられるにせよ、政治体制のあり方が決め手となっているのは間違いない。本書は韓国現代政治史の概論的内容となっているが、適宜、北朝鮮との比較についても指摘される。①冷戦から脱冷戦への移行、②採用された経済発展戦略の相違、③権威主義体制・開発独裁体制から民主主義体制・市場経済への移行という三点に焦点を合わせながら、韓国政治がたどってきた動向を分析し、その中から韓国が優位に立った要因について考察が進められる。

 様々な要因がからまっているので結論的に言うのは難しいが、本書は構造的な要因として次の三点を指摘している。

 第一に、北朝鮮が「自力更生」路線を掲げ自らの「主体」性を強調していたのに対し、韓国は国際経済との連携を経済発展戦略として採用した点が挙げられる。とりわけ朴正熙政権は北朝鮮と比べて軍事的・経済的に劣勢にあるという認識を持っていたため、経済発展によって体制競争に勝とうとした。それは国際市場への輸出というだけでなく、同盟国アメリカからの援助、さらに日本との国交正常化によって経済的資源の移転を促し、そうしたリソースを活用しながら輸入代替工業化と輸出指向型工業化を両立させる複線型発展モデルが進められた。国際分業体制への参入によるメリットを享受する一方、一時期は海外への従属的関係に陥った面もあったにせよ、「自力更生」路線の北朝鮮とは異なり、その後の飛躍的な経済発展につながるバネとなった。

 第二に、北朝鮮が「一つのコリア」にこだわったのに対し、韓国は1970年代以降、南北分断という現状認識から出発すべきという「二つのコリア」政策を取り、蓄積された経済力も相俟って、その後の北方外交の展開、中ソとの国交正常化、南北国連同時加盟といった外交的成果を収めることができた。他方で、北朝鮮側の外交的成果ははかばかしくない。

 第三に、指導者の世襲による全体主義的体制を取る北朝鮮が「遺訓」によって政策的オプションに大きな制約がかけられている一方で、政権交代が常態化した韓国では政策変更に対する正当性の取り付けが比較的容易であった。それは、かつてはクーデタによる政権交代という異常な形を取ることもあったが、1987年にそれまでの権威主義体制から本格的な民主主義体制へと移行してからは選挙による政権交代がすでに制度化されている。また、権威主義体制の内部でも政策変更はしばしば実行されていた。

 こうした両国の対称性は、政治制度のあり方そのものが国民の運命についても明暗を分けてしまうことを改めて感じさせる。1970年代の段階では両者のパワー・バランスにそれほどの開きがなく、対話路線の可能性も見られた。しかし、その後は両者の格差は拡大するばかりで、北朝鮮は建前として「統一」を掲げる一方、韓国主導の吸収統一を避けて現体制の生き残りを目指す方向で政策目標が再設定されたと考えられる。金大中政権の宥和政策も、李明博政権の比較的強硬な政策もいずれも奏功しなかった背景にはそうした事情があるようだ。 

 なお、関心を持った点をいくつかメモしておくと、
・近年における李承晩の再評価の傾向:①植民地近代化論への反論として、李承晩政権期の国家資本主義を再評価。②北朝鮮に対して韓国が完全に優位に立った現時点から見ると、李承晩の単独政府樹立という選択は間違っていなかった。③李承晩政権と朴正熙政権とを同じ保守政権として連続的・段階的に理解する位置づけ。
・朴正熙政権の独裁や人権弾圧にもかかわらず彼の評価が高いのは、「ナショナリスト」としての側面。彼は、「反日」ナショナリズムではなく、「用日」「克日」ナショナリズム→韓国の国益のために日本を利用するというリアリスティックな思考で一貫していた。
・日韓国交正常化をめぐる日韓双方の相違:日本での反対運動は「脱植民地化」に向けられず、「冷戦」へ巻き込まれることへの懸念が中心だった。対して韓国では冷戦体制に組み込まれていることは自明なのでこの点は問題視されず、「植民地責任」が清算されないままで日本へ従属化してしまうという点で批判。

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2012年7月16日 (月)

唐亮『現代中国の政治──「開発独裁」とそのゆくえ』

唐亮『現代中国の政治──「開発独裁」とそのゆくえ』(岩波新書、2012年)

 比較政治論の枠組みにおいて現代中国が模索している近代化の方向性を「開発独裁路線」と位置づけ、政治体制の構造的な特徴を分析。その上で、台湾や韓国における権威主義体制がやがて民主化へと進んだ前例を念頭に置きながら、ある意味で発展段階説的な観点から、中国でも徐々に進展していくはずの民主化について考察を進めるのが本書の基本的な論調となっている。

 社会的矛盾や政治的不満は、高度経済成長路線によって何とか抑え込まれているのが現状であり、今後、民主化するにしても、それがソフトランディングになるのか、ハードランディングになるのかは、経済開発政策と社会政策とがうまくかみ合った形で進むかどうかにかかっている。中間層が民主化の推進力となるとするリプセット仮説について、中国の中間層は共産党支配体制の恩恵をこうむっているのだから当てはまらないのではないか、という議論もあるが、本書では中国の中間層も中長期的には成熟するはずだと肯定的な捉え方をしている。

・近代化の三つのモデル:①経済発展最優先の段階(社会秩序安定のため自由と権利を制限)、②社会政策強化の段階、③民主化推進の段階→中国では、毛沢東時代の全体主義は①、鄧小平による改革開放以降は権威主義体制の②に変容していると本書は位置づける。台湾や韓国の経験を踏まえると、中国も今後は③の民主化の段階へ進むはずである、というのが本書の全体的な論旨。
・「法の支配」が確立していない問題。司法の独立、裁判官の独立、専門主義と職業倫理のいずれにおいても欠陥が大きい。近代化の進展に伴って人々の利益要求が強まり、利益対立や社会衝突が頻発。しかし、司法制度や法意識の改善が進んでいないので、共産党が​政治的手段で抑え込もうとする。一時的には社会秩序の安定化はできるかもしれないが、そうした政治介入はかえって司法の権威の確​立を妨げているというジレンマ。ただし、長期的には法治国家への建設は少しずつ進んではいると指摘。
・社会主義は平等と公平を理念とする一方で、現実には経済格差が拡大。
・国有企業では経営重視の方針によって雇用制度、報酬制度、医療・年金制度の改革→労使関係において経営者が絶対的な優位に立ち、都市部労働者は特権が奪われて社会的弱者に転落。中小企業は民営化され、経営者は人員整理。
・機会の不平等。とりわけ、農民への不当な差別。エリートの特権と腐敗。
・維権活動の展開、その動員力として新興メディア。「群体性事件」の頻発や新興メディアによる速報性→弾圧コストの増大→集団抗議活動に対して地方政府が譲歩するケースも増えている。
・政府の強い介入で農地の収用や住民の立ち退き→各級政府は十分な経済補償を行わないで強制的に収用した土地を活用、経済特区や公共インフラの整備ばかりでなく、転売による莫大な財政収入。環境問題をめぐる住民運動の頻発。
・開発政策と社会的弱者の保護とをどのように両立させるのか?という課題。
・上からの政治改革戦略。政治改革≒民主化と経済改革は同時にすべきか、どちらかを先行させるのか? 政治改革の三つの次元:①民主化、つまり一党支配体制を解体、普通選挙、複数政党制、言論と報道の自由、権力の分立、文民統制など欧米型政治制度の導入。②緩やかな自由化、つまり政治統制力の確保を前提としながら社会の活性化を図る。③政府改革。かつてのソ連におけるショック療法が①→②→③という順番だったとしたら、中国における漸進路線は③→②→①という順番。②の段階についてなら、政府内改革派と民主化勢力穏健派との連携は可能。
・一党支配体制や保守的な改革路線を正当化するため、「中国式民主主義」という主張→社会主義の優越性という論理は説得力が薄れてきているので、集団主義など伝統文化論の主張もよく見られる。コーポラティズムや討議デモクラシーなどの概念も用いるが、欧米とは条件が異なる。
・中間層が民主化の担い手になるというリプセット仮説は中国にも当てはまるか?→現時点で中国の中間層は未熟ではあるが、将来的に成熟して民主化の推進力になる可能性を指摘。
・市場化、グローバル化、情報化、自由化が進む中、中国政府も一党支配体制を維持するため時代的潮流に合わせて制度改革を進める必要に迫られている。中長期的に見て、民主化が進むとして、それは「軟着陸」か「硬着陸」か?→1989年の天安門事件当時と比べると、現在では民主化のための「初期条件」は進展しているが、不十分な点も多い。社会的矛盾や政治的不満は経済成長によって緩和されている側面があり、経済の失速が早いと「追い込まれた民主化」という「硬着陸」の可能性が高まるが、近代化が順調に進めば「軟着陸」できるかもしれない。

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