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2012年10月15日 (月)

藤原辰史『カブラの冬──第一次世界大戦期ドイツの飢饉と民衆』

藤原辰史『カブラの冬──第一次世界大戦期ドイツの飢饉と民衆』(人文書院、2011年)

 第一次世界大戦下のドイツで70~80万人もの餓死者を出したと言われる「カブラの冬」(1916~17年)。開戦によって海外からの食糧輸入ルートは遮断され、当初、長期戦になろうとは誰も予想していなかったので食糧問題には何らの考慮も払われておらず、付け焼刃的な食糧政策はかえって混乱に拍車をかけた。例えば、「豚殺し」。学者のはじき出した単純なカロリー計算によると、豚飼育用のジャガイモは人間の消費量を上回る。ならば、豚は殺してしまえ──しかし、人間のエネルギー源として穀物と脂肪分とで果たす役割の相違を無視した暴論は飢餓をより深刻なものとした。

 飢餓にまつわる不満を訴えようにも政治システムとして適切な代表ルートがなかったため革命を誘発。続くヴァイマル共和国期でも食糧政策の脆弱性や不平等性は克服できず、大戦中に実体験した飢餓に根ざした憎悪感情は行き場を失い、ナチズム台頭を後押しする契機となった。こうした憎悪は、「飢えたドイツ人/豊かなユダヤ人」という人種主義的偏見を増幅させたり、「食糧さえ確保できていれば戦争には勝てたかもしれない」(背後からの一突き伝説)という「終わり損ねた戦争」意識をもたらした。海上封鎖を受けたことは、海外植民地ではなく東方拡大を目指したヒトラーの「広域経済圏」構想にもつながったという。

 飢餓という生命維持に根ざした根源的な記憶がその後のドイツ革命、ヴァイマル共和国期、さらにはナチズムへと如何に深刻な影響を及ぼしていったのか、そこを農業生産という視点で一つの見通しをつけていく手際が鮮やかである。

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