【映画】「ロスト・イン・北京」「私の少女時代」
新宿のK's cinemaで開催された「中国映画の全貌2012」のオープニング作品、「ロスト・イン・北京」(原題:苹果、李玉監督、2007年)と「私の少女時代」(原題:我的少女时代、馮振志監督、2011年)を観に行った。
「ロスト・イン・北京」。北京オリンピックを間近に控えた時期で、建設ラッシュの街並がたびたび映し出される。マッサージ店で働く苹果(范冰冰)は、高層ビルの窓拭きをしている夫と暮らしていたが、勤め先の社長(梁家輝)にレイプされて妊娠した。妻の不貞をなじっていた夫だが、ふと「これはチャンスだ」とつぶやく。社長には子供がいない。生まれてくる子供の血液型を調べ、もし社長の子供だったら大金と引き換えで養子とする契約を結んだ。傲慢な成り上がり者の社長に対して、地方出身で貧しい夫もしたたかに立ち向かったように見える。しかし、金銭的契約で割り切ったはずなのに、二組の夫婦それぞれが疑心暗鬼に陥って関係が崩れていく、という話。蛇足ながら、范冰冰の激しい濡れ場で話題になったらしい。
「私の少女時代」は文化大革命末期を背景に、下放された下半身不随の少女が医学を志す話である。張海迪という人の自伝的な作品『車椅子の上の夢』を自ら脚色した映画らしい。苦難の中でも笑顔で耐え抜くポジティヴ・シンキングはまさに文部省推薦映画という感じの健康健全な明るさだ。演出は分かりやすいがコンベンショナルで古くさく、画質も少々粗いので昔の映画かと思ったら2011年製作ということで驚いた。
二つの作品を続けて観ると、(企画主催者の意図は知らないが)明るい未来を信じられた時代への懐旧と、現実社会の矛盾点をリアルに捉えようとした現代性という対比として印象付けられた。いくつか気づいた点を挙げると…
(「私の少女時代」/「ロスト・イン・北京」の順番)
・都会から下放されてきた少女は村で教師・医師として活躍(耳の聞こえない難病の少年が彼女の鍼で聞こえるようになるのは「啓蒙活動」の成果のシンボル?)し、帰るときは村人から笑顔で見送られる/主人公の若い夫婦は地方出身の農民工で、都会生活の中で苦労し、最後、苹果は子供だけ連れて一人で故郷に帰る(娼婦になって殺される友人も出てくる)
・努力すれば何とかなる/厳然たる貧富の格差の中で挽回するのは困難
・善意の村人たち/都会生活の中で夫婦間ですら互いの悪意を疑う
・少女は無償で医療活動→善意で成り立つ人間関係/若い夫婦は社長夫婦に子供を渡す金銭的契約、社長夫婦の間では「もし夫が浮気したら財産の半分を妻に渡す」という契約→夫婦や家族の間ですら金銭上の問題として捉える発想
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