【映画】「ヴァンパイア」
「ヴァンパイア」
ネット上の自殺サイトを通して自殺志願の女性たちとコンタクトをとり、一緒に死のうと誘いかけて血を抜き取るヴァンパイア。しかし、その姿は内向的なメガネ男子で、どうせ死ぬなら血をおすそ分けしてくださいという程度のスタンス。眠らせて注射針で抜き取るというやり方で、それほどの猟奇性はない。そもそも彼がホラー映画的意味での「吸血鬼」なのかどうかも分からない。最初の方では血を飲んだ後に吐き出してしまったり、血液検査をしたら「O型ですと言われたりするところを見ると、肉体的には普通の人間なのではないか。ある種の強迫神経症的なセンシティヴィティーのメタファーとして理解できるのかもしれない。
自殺志願者だから当然かもしれないが、死を特別なものではなくフラットに受け止める感覚。最後に出会った女性がなぜ死にたいと思っているのか、その家庭背景に関わる理由を聞いたとき、彼は初めて彼女を助けたいと考えた。それまでは相手の来歴を知ることがなかったから無機的に殺せたが、今回は相手を知った=つながりができたがゆえに放っておけなくなったという筋立てなのだろうか。このあたり、唐突な印象を受けた。いかにも岩井俊二らしい叙情的な映像や音楽だからごまかされるけど、人物描写は意外と平板で、心象風景として胸に迫ってくるものが実のところ感じられなかった。岩井俊二の映画は昔から洋画を意識している素振りがうかがえた。白人さんを使って映画を作りたいという願望があったから、今回、カナダのロケでようやく夢がなかったということか。
【データ】
監督・脚本・音楽:岩井俊二
2011年/日本・カナダ/119分
(2012年9月23日、渋谷、シネマライズにて)
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