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2012年6月 6日 (水)

阿部真大『搾取される若者たち──バイク便ライダーは見た!』『働きすぎる若者たち──「自分探し」の果てに』『居場所の社会学──生きづらさを超えて』

 流動的な雇用情勢の中、企業は利益確保のため人材のアウトソーシングを進め、それは自己実現のためという理念的掛け声によって社会的にも正当化されている。しかし、被雇用者側においてある種の心情的なモチベーションがかき立てられていく一方、企業側はそれを利用することで過剰労働を強いるメカニズムが出来上がってしまっている。自己実現のための働きすぎなら本人も納得済みなのだから一概に悪いと断定はできない。ただ、非正規雇用という形態で将来に不安を抱えた立場にある人々の場合、憔悴しきった結果としてそのまま使い捨てにされてしまうことがあり得るところに社会問題としての深刻さがある。

 もちろん労働問題として専門家に相談すべき事例もあろうが、それ以上に深刻なのは、必ずしも特定の経営者の策略などといった性質の問題ではないことだ。社会関係的に生成した職場の落とし穴であるという側面をどのように考えるのか。ある意味、みんな(社会)の思い込みで成立っている、ならばみんなの考え方を変えていけば職場も改善されるであろう。そのためには、まずこうしたメカニズムの生成過程を把握しておかなければならない。

 例えば、バイクが好きだから、趣味が仕事になる…? そんな簡単に言えるものだろうか。阿部真大『搾取される若者たち──バイク便ライダーは見た!』(集英社新書、2006年)はバイク便での就労体験をもとに、まさに「好きだから」「カッコいい」という動機がテコとなって不安定就業の中でもワーカホリックになっていく構造を分析する。視点は社会学だが、筆致はノンフィクションのノリ。

 上掲書の分析対象が労働×趣味とするなら、対して阿部真大『働きすぎる若者たち──「自分探し」の果てに』(NHK生活新書、2007年)で示される構図は労働×良心となる。老人介護の現場では利用者へのサービス向上のため、従来の「集団ケア」から「個別ケア」に移行しつつあるが、そのしわ寄せはケアワーカーたちにのしかかる。しかも、彼らの給与水準はかなり低い。だが、きつい上に労働対価に見合わないからと言って、目の前にいるお年寄りを見捨てるわけにはいかない。そうした良心が否応なく過剰労働へと駆り立てていく。

 従来の福祉政策においては介護に関わる人材はあくまでも補完的なもの、具体的には主婦のパートなどが想定されていた。ところが、近年、福祉現場における人材難と社会一般における就職難とが合わさって新卒の若い人びともこの職場に入るようになってきた。しかし、ケアワークだけで生計を立てていくのは難しい。主婦パートは経済的に余裕があるので「家庭にいた私が役に立てる自己実現の場所」となるが、経済的に将来へ不安を抱えている若年層とは意識が全く異なり、労働条件等に関しても一枚岩にははれないという問題があるという。また、ケアの場面におけるコミュニケーション能力は「専門性」として明確化できるのか?という問題も指摘されている。

 ベストセラーになった『13歳のハローワーク』では、好きを仕事につなげるというコンセプトが示された。しかし、実際には、大多数の人びとにとって「仕事での自己実現」は難しい。ポストフォーディズム社会における知識集約型産業とそれに従属する第三次産業とに分化しつつある中、仕事で自己実現できるのはほんの一握りに過ぎない。そうでない人は自己実現の場をどこに求めたらいいのか? 学校や職場以外の場面においても自己実現を可能にする場所としての中間集団を確保し、それらの中で重層的な自己を築き上げていく。そうした「ふところ」のある社会が求められているのではないか?という問いが示される。
 
 自己実現の場とは、突き詰めていくと自分の存在を他者から承認してもらえる関係性の問題である。承認感や肯定感があって、はじめてこの世界の中で生きているという実感を確証できる。「仕事」を通じた承認だって、様々にあり得る承認のスタイルのあくまでも一つだと割り切って考えた方が生きやすい。阿部真大『居場所の社会学──生きづらさを超えて』(日本経済新聞出版社、2011年)はそうした承認にまつわる関係性を「居場所」と表現している。本書は、不安定な雇用形態にある人々を対象とした社会的包摂を如何に実効的なものにするかという問題意識から、考えられる手順を12の命題にまとめている。承認の強弱によって「居場所」を使い分けていく必要はあるだろう。また「居場所」を受け身で考えるのではなく、自分自身の条件を考えた上で能動的にぶつかりあいながら作り上げていく必要があり、その点でのヒントになりそうだ。

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