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2012年6月25日 (月)

【映画】「冬の小鳥」

「冬の小鳥」

 1975年、ある冬の日のソウル近郊。孤児院に入れられた9歳の少女、ジニの孤独な気持ちの揺れ動きを描き出した映画である。ウニー・ルコント監督自身が幼い頃、韓国の孤児院からフランス人家庭にもわわれて養子として育った人で、そうした自身の実体験を基にしている。監督自身、韓国語はすでに話せないらしい。

 孤児院で寂しい思いをしている二人の少女、ジニとスッキ。庭先で見つけた一羽の瀕死の小鳥。自分たちが親代わりになったつもりなのだろうか、食堂から盗んできたエサを与えながら回復を見守る。雨の日、かわいそうに思って部屋に入れたが、見つかったら怒られてしまう。考えあぐねて取りあえずタンスの引き出しに押し込んだ。あくる朝、小鳥は冷たくなっていた。二人は丁寧に埋葬する。やがてスッキはアメリカへ里子に行った。残されたジニは墓から小鳥の亡骸を掘り起こし、投げ捨て、掘り進めた穴の中に自身が横たわる。そして、目をつぶる。自分自身も死んだんだ、そう言い聞かせるかのように。

 そうしたジニの姿を見ていたら、ふとキム・ギドク監督「サマリア」のワンシーンを思い浮かべた。サティのジムノペディ、ノクターンがゆったり流れる中、土中で静かにまどろむ少女の面立ち。秋から冬にかけての寒々とした空気、しかしそのピンと張り詰めたような清潔感が少女の抱えたやり場のない感傷を浮き彫りにしていた。二つの映画とも冬という季節だけでなく、少女の心の傷をテーマにしていた点でも同様である。だから、両方を結び付けたくなる連想が呼び起こされたのだろう。

 だが、明らかな違いがある。「サマリア」の少女には暖かく見守ってくれる父親がいた。その安心感がもたらす穏やかさが、彼女の表情に静かに浮かんでいた。しかし、ジニは父親から捨てられていた。対比すると、ジニのこわばった表情にうかがえる哀しさが、より痛切に感じられてくる。

 冬の冷え切った空気にはある種の透明感があり、ジニの心象風景を如実に映し出すかのようだ。冒頭、父親の自転車の後ろに乗って一緒に買い物をしていた時の屈託のなさ。孤児院へ連れてこられ、父がいなくなった時の不安げな面持ち。そして、どこにぶつけたら良いのか分からず戸惑ったような苛立ち。ジニ役の少女が素晴らしい。愛らしい顔立ちにこうした感情の昂ぶりやつらさが本当に自然に表れている。

【データ】
原題:Une vie Toute Neuve
監督:ウニー・ルコント
2009年/フランス・韓国/92分
(DVDにて)

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