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2012年5月25日 (金)

【映画】「別離」

「別離」

 イランのアスガー・ファルハディ監督の作品「別離」。ベルリン映画祭の金熊賞やアカデミー賞の外国語映画部門を受賞した話題作。アメリカとイランとが政治的に対立している中での受賞だけに、余計に気になっていた。

 一言でいうと、本当によくできていると思った。ファルハディ監督自身の脚本らしいが、ストーリー構成は綿密に練り上げられており、取り立てて派手な事件が起こるわけでもないのに飽きさせない。

 ことの発端は、テヘラン在住のある夫婦に巻き起こった離婚騒ぎ。英語学校で教師をしている妻が娘の将来を考えてヨーロッパへの移住を主張していたのだが、夫の方は父が痴呆で介護を要するため、こんな時に海外へ移住するわけにはいかないと反対。意見が折り合わないため、妻から離婚を切り出していた。当面、妻は実家に戻ったのだが、家に誰もいない間、痴呆の父の面倒を誰が見るのか。知人の紹介で雇ったヘルパーは、イスラムの戒律を厳格に守る敬虔な女性だった。彼女は介護対象の老人であっても異性に手を触れるわけにはいかないと悩むのだが、そればかりでなく、どうやら彼女自身も家庭でトラブルを抱えている様子だ。ある日、彼女は所用で家を出た。その間、痴呆の老人をベッドに縛りつけていたのを、折悪しく早く帰ってきた家の主人に見つかってしまった。勤務時間中に外出するどころか、この仕打ちは一体何事か!──怒鳴られ、口論の末にたたき出されたところ、彼女はアパートの階段を転がり落ちてしまう。翌日、妊娠中だった彼女は流産した。誰の責任なのか? 彼女の失業中の夫も出てきて、裁判はややこしくなっていく。

 誰の言っていることが本当に正しいのか? そうした「藪の中」的な状況を通して、各々の心情的な機微を浮かび上がらせていく構成が実にうまい。それだけでなく、離婚、老人介護、子供の教育、女性の社会的地位(海外移住に積極的で夫に対しても自己主張する女性と、信仰心が篤く夫にも逆らえない保守的な女性という対比)、様々な問題がストーリーの中に凝縮されている。こうしたあたりから、現代イラン社会の一端を垣間見ることができるだろうか。

 観おわった後に気づいたのだが、以前に観た「彼女が消えた浜辺」という映画もファルハディ監督の作品だった。この映画も心理劇として秀逸だったのをよく覚えている(→こちら)。イラン映画の底力を改めて感じた。

【データ】
監督・脚本:アスガー・ファルハディ
2011年/イラン/123分
(2012年5月12日、渋谷、文化村ル・シネマにて)

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