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2012年5月 9日 (水)

台湾旅行③(5月5日、小琉球)

(承前)

 島へ渡った。

 台湾南部・屏東縣の沖合に浮かぶ離島、小琉球である。かつて中国の史書では台湾や沖縄も含めてこの辺りの島々は「琉球」と呼ばれており、その名前が残っている。行政上の名称は屏東縣琉球郷だが、沖縄と区別するため「小琉球」とも呼ばれる。

 小琉球への連絡船は東港という漁港から発着している。かつてここまで敷かれていた鉄道路線はすでに廃線となってしまったので(ちなみに、私の手元にある2006年版の台湾地図集[大輿出版社]には東港線がしっかり記載されている)、今はバスで行くしかない。しかし、東港のバスターミナルからさらに埠頭まで別のバスに乗り換えなければならず、時間的効率があまり良くなさそうなので、高雄から東港碼頭まで直接タクシーで行くことにした。

 雲行きは不安定そうだ。せめて雨が降らねばいいのだが。

 東港碼頭でタクシーを下ろしてもらった。高雄からここまで1時間もかからなかった。

 小琉球へ渡るには民営と公営の二つの航路があり、発着所はそれぞれ別になっている。島で一番大きな集落である白沙尾へは民営航路が行き、公営航路だと別の不便な漁港の方に着いてしまうそうなので、民営航路の発着所に入った(写真)。団体客や家族連れなどであふれかえっている。マリンスポーツもできるので人気があるようだ。地図を見ると、民宿やキャンプ場なども結構たくさんある。

 往復切符420元を購入。白沙尾碼頭へは1日8本就航しているが、今日のような休日には臨時に増便されており、あまり待たずに乗船できた(写真)。

 島に着いたのは朝9時頃。東港の発着所から所要時間は20分ほど。

 幸いなことに晴れてきた。何の考えもなしに取りあえず身一つで渡ったのだが、レンタサイクルで島を一周することにした。バスも運行されているようだが、本数は少なく不便らしい。なお、観光バス以外に自動車はほとんど見かけなかった。

 島内を環状道路が巡らされており、サイクリングがしやすいように道路が整備された区域もある(写真写真)。ただ、島内観光の主流はバスでも自転車でもなく、バイクである。台湾の人はみんなバイクに乗り慣れているから、当り前と言えば当り前だ。老若男女を問わず、二人乗りのバイクの集団が私を次々と追い越していく。自転車利用者は本当に私一人だけだった。台湾で通用する運転免許がないので仕方ないのだが。エコ対応ということで電動バイクが推奨されており、充電機も島内でいくつか設置されている。

 小琉球は台湾では唯一の珊瑚礁からなる島で、ところどころで見かける岩肌には珊瑚に特有の模様がくっきり見える(写真)。それらの岩石にまとわりつくように青々と繁った植生は、葉っぱの瑞々しい緑色が印象的で、やはり熱帯に来たのだなあ、と実感させてくれる。

 まだ午前中だが、気温が上がってきた。サイクリング・ロードの両脇に生い茂った木々が道路の上に屋根のようにおおいかぶさってところでしばし涼を取る(写真)。

 小琉球では珊瑚礁質の岸壁が波風に削られて謎めいた姿を見せる洞窟や奇岩が観光スポットになっている。最初に訪れた美人洞もそうした一つである。ギザギザ状態になった岸壁のすき間を歩く(写真写真写真)。

 この島での生業は基本的に漁業しかなかったわけだが、海に出て行った男たちを待つ女性がこの辺の洞窟で待っていたらしい。生い茂った木々が岩肌のへこみの周りを取り囲んでいる空間などに入り込むと、洞窟とは言っても快適に生活できそうな印象を受ける場所もあった(写真)。海は見えない。しかし、木洩れ日が明るく、波の音は間近に聞こえる。

 写真の浜辺は威尼斯海灘(ベニス海岸)と名づけられている。台湾では海水浴の名所というのを意外と聞かないが、ここは良さそうな感じだ。

 海を見ながらのサイクリングは快適なのだが、2時間もすると疲れてきた…。もちろん、気温が上がってきたせいもある。30度は間違いなく超えている。12時過ぎには陽炎がゆらいでいるのが見えた。ただ、それだけでなく、第一に、寝不足であった。気力体力を充実させてから来た方が良かった。第二に、自転車のブレーキがおかしい。普通に走っていてもブレーキが微妙に接触しており、漕ぐ力が相殺されてしまう。結局、下り坂以外は引いて歩いた。それでも、海を見ながら下り坂をシャーッと走り降りるときの爽やかさは何物にも代え難い。

 ところどころで墓所を見かけた(写真)。中華圏における墓葬制度についてはよく分からないが、この形式のお墓は台湾各地でよく見かける。この島ではお墓はみな海の方を向いている。祖先が渡って来た方向を見つめながら眠ってもらうという配慮なのだろうか。

 今回の小旅行のお目当の一つ、烏鬼洞。旅行前に下調べした伊能嘉矩『台湾文化志』によると、オランダ人に連れて来られて島に住み着いた黒人奴隷が、島の住民によってここで虐殺されたという言い伝えがあるらしい。

 原文を引用。「小琉球嶼、石洞あり、天台澳尾に在り、相傳ふ、舊時烏鬼あり、族を聚めて居る、後泉州人あり彼に往て開墾す、番能く容れず、遂に泉州人は夜に乗じ火を縦ち、尽く燔きて之を斃さる、今其洞尚ほ存し、好事者轍ち往いて遊ぶ。」「蓋し、支那人の手に成りし文献に合考するに、大体に於て阿弗利加のネグロ若しくはネグロイド系統に属する民種の分布地方を総称して烏鬼國といへり。其住民の膚色帯黒なる体貌を有するに因みて命名せるなり。」(伊能嘉矩『台湾文化志』下巻[覆刻版]刀江書院、1965年、864ページ)

 16~17世紀、スペイン、ポルトガル、オランダ人が台湾に来航した際に帯同してきた黒人奴隷の中には、オランダ人が鄭成功によって追い払われた後も、解放されてそのまま台湾に居ついた者がいたらしく、鄭成功陣営にも銃の使用法に習熟した黒人奴隷2人がいたという記録もある。もともと中国の史書で黒人は「烏鬼」と呼ばれており、台湾各地の烏鬼にちなんだ場所(小琉球の他にも3ヵ所挙げられている)は彼らと何らかの縁があったようだ。

 なお、ここ「烏鬼洞」の英語名はBlack Dwarf Caveとなっている。Black Dwarf、つまり矮黒人にまつわる伝説は台湾の各原住民(蘭嶼のアミ族以外)に語り伝えられている。これらの伝説によると、矮黒人とは各原住民が台湾に渡来してきたよりもさらに以前から存在した先住者で、農耕など先進的な文明技術を彼らに教えてくれた。その意味では恩義がある。しかし、矮黒人は乱暴者で女性にちょっかいを出すなどのトラブルがあったため、彼らを皆殺しにしてしまったという。サイシャット族のパスタアイは虐殺された矮黒人の霊をなぐさめる祭祀として有名である。

 小琉球の場合、殺害されたのはオランダ人が連れてきた黒人奴隷で、手を下したのは泉州から渡来してきた漢族系の住民とされている。原住民の伝説に登場する矮黒人とどのようなつながりがあるのかはよく分からない。あるいは、原住民側の伝説では時間感覚がフラットになった中で黒人奴隷と接触した際の記憶が取り込まれているのかなあ、などと想像してみたりもする。

 写真の入口から洞穴の中へと降りていく。暗がりの中に入って行くと薄ら寒い感じもするが、すぐに海側の岸壁に出た。あとは岸壁沿いにデコボコした岩肌のすき間をルートに従って歩いていくことになる(写真写真写真)。一種のおどろおどろしさのようなものも期待していたのだが、小琉球の他の洞穴スポットと同様に奇岩の間を歩き回るだけなので、特別な何かを感じることもない。荒天の日にはこうしたデコボコな岩間を風が吹き抜けると、人の泣き叫ぶ声のようにも聞こえるだろうか、そんな想像をしながら歩いた。

 岸壁に設定された展望台に立って海を眺める。晴れて穏やかな陽射しが降り注ぐ中、押し寄せる波の音がリズミカルに響いてくるのに耳を傾ける。この海辺へポルトガル船やオランダ船、もしくは福建沿岸からの中国船などが来航してきた様子を想像してみる。

 ただ、高校生くらいの団体やいちゃつくカップルなどがはしゃぎながら記念写真を撮っていたりするので、そうした想像もすぐ掻き消されてしまったが。

 
 烏鬼洞を後にして、このまま南回りに島を一周しようかとも思っていたが、疲れてきて気力が持続しそうにない。もう一つの目的地である白灯台まではショートカットで行くことにした。

 白灯台は島の中央に隆起した丘の上にある。林の中を一本だけ通ずる坂道。他の観光客がみなバイクに乗ってスイスイ駆け上がっていくのを恨めしげに睨みつけながら自転車を引っ張っていった。

 この灯台は、台湾海峡やバシー海峡を航行する船のため、日本統治期に建設された(写真写真)。ネット上の観光案内サイトを見たところ、結婚式の装束で身を固めたカップルが記念撮影するスポットになっている一方で、かつてここで灯台守をしていた日本人が敗戦時に自決したという歴史もあるらしい。白灯台の手前、鬱蒼とした木々に埋もれた中に門柱を見かけた。樹木が壁のように立ちふさがって、どんな建物があるのかは見えなかった。ひょっとして、日本統治期の官舎でもあったのだろうか。

 私が白灯台を見ている間にも、バイクに乗った観光客が去っては次の人が来てという感じに細々ながらも人の動きは絶えない。灯台からペンキ塗りをしていたおじさんが脚立を担いで出てきた。工事中らしく中には入れなかった。

 だいぶ疲れてきたので連絡線発着所まで戻る。島の中央部を走る大通りをまっすぐ進むと、あっけないほど早く出発地点の街並までたどり着いた。戻ったのは午後1時頃だったので、島の中を回っていたのはおおよそ4時間くらいか。

(続)

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