【映画】「台北カフェ・ストーリー」
「台北カフェ・ストーリー」
シネマート六本木で「台北カフェストーリー」を観た。映像のカットは工夫されているし、ストーリーのテンポも良い。そこに合わせて、憧れの桂綸鎂(グイ・ルンメイ)様が不機嫌そうにむくれたり、嬉しそうに飛び跳ねたり。彼女の豊かな表情を堪能できた、何とも至福な1時間20分。
原題は《第36個故事》、英題はTaipei Exchangesとなっている。タイトルで示された強調点がそれぞれ異なるのは面白いが、この3つを合わせるとストーリーの概要が浮かび上がってくる。
会社を辞めて念願のカフェをオープンさせた朵兒(ドゥアル:桂綸鎂)。しかし、手作り感覚のオシャレな店内には閑古鳥が鳴く。開店祝いと言って友人たちが持ってきてくれたガラクタをどうしようか困っていたところ、妹が物々交換すれば良いと発案した。「何と交換しようかお客さんは考える、そのときまず何をする?」「…?」「とりあえずコーヒーを頼むでしょ」。妹のアイデアでお店は軌道に乗ったが、ドゥアルは自分のコーヒーやケーキが脇役みたいで何となく腹立たしい。
ある日、たくさんの石鹸を持ってきた男性。「物々交換したいんだけど、何と交換したら良いか分からないんだ」。海外へ行くたびに集めて来た、それぞれ国籍の異なる35個の石鹸。彼は一つ一つにまつわる物語を語り始め、聞き入るドゥアルはそのたびに絵を描き始める。では、36個目の物語は?──というのがこの映画の落としどころ。
物の価値はお金ではなく人の気持ちで決まる──ナイーヴと言えば実にナイーヴな発想だ。無粋なことを敢えて言ってしまうと、物を交換するに当っては二つの問題がある。第一に、主観的な思い入れでは等価交換が成り立たず、他者の需要という評価を受けるために「お金」という基準を設定する必要がある(姉妹の母が価格を設定しなさいと言ったように)。第二に、限定された空間では交換相手が見つからない可能性が高いので、「お金」という抽象的等価物を通して未知なる他者とも物の交換ができるようにする。価値基準にせよ、交換可能性にせよ、具体的な表情を持った物からその個性を奪って抽象化することによって初めて成立する。そして都市空間というのは、まさにこうした匿名的抽象性を特徴とする。
しかし、物が持っている色彩や年経りた質感、そして人が抱く思い入れの数々、そうした具体的な一つ一つにこそ物語があり、イマジネーションを広げていく余地がある。温もりある形で人と人との関係性を見つめ直してみたい──この映画を受け入れる感覚的基盤はこうしたあたりにあるのだろう。ある意味、経済的にも社会的にも成熟した先進国ならではの贅沢な悩みとも言えるが。ストーリーとしてはロハス志向の人に受けるタイプの映画だ。
監督の蕭雅全は侯孝賢の助監督だった人らしく、侯孝賢が製作総指揮としてバックアップしている。中孝介がほんの一瞬だけ出演して歌声を披露するのだが、エンドクレジットでの扱いは目立つ。「海角七号」以来、台湾で人気は高いようだ。舞台となっている朵兒珈琲館はもともとこの映画のセットとして作られたが、そのまま今でも営業しているらしい。
【データ】
監督・脚本:蕭雅全
製作総指揮:侯孝賢
2010年/台湾/81分
(2012年4月15日、シネマート六本木にて)
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