【映画】「シルビアのいる街で」
「シルビアのいる街で」
古都ストラスブールの街並が良い感じだ。セリフは最小限にとどめられ、明確なストーリーが浮かび上がってくるわけでもない。主人公がただひたすら街中を歩き回っているだけだ。街で見かけた女性の後をつけわますのは単なるストーカーじゃないかと思うが、主人公がハンサムな青年画家だからとりあえず絵になる。新感覚のラブストーリーと謳われているが、ちょっと違うと思うぞ。彼が追い求めたのは6年前に出会った女性の面影だったという設定はもちろん分かっているけど。
それよりも、カフェ、酒場、市電の待合所──街のあちこちで行き合わせた人々の表情が丁寧に観察されるところが興味深い。普段はそんなのいちいち気にしながら街を歩いていないが、青年がスケッチする観察眼を通してこちらにも注意が喚起される。談笑していたり、不機嫌だったり、あるいは事情ありげにふさぎこんでいたり。何気なくすれ違うだけの人々でも、注意深く表情を見ていくと、各々が抱えた人生の機微が、少なくともその断片がそれとなくほのめかされてくる。様々な人生の物語が織り成されて一つの街が出来上がっているのか、などど想像も羽ばたいていく。
カフェの窓ガラス、通り過ぎる市電の車窓に乱反射するように人々の顔が映し出されるカメラワークは万華鏡のように美しく、あたかも街を彩る多面相が凝縮された小宇宙のようにも見えてくる。こうした中なら、自身のイメージとして抱えた面影を投影してしまう余地は確かにありそうだな、という気もしてくる。ストーリー以前に、街並と人々の細やかな描写がすごく良い。こういう映画は好きだな。
【データ】
監督:ホセ・ルイス・ゲリン
スペイン・フランス/2007年/85分
(DVDにて)
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