野嶋剛『謎の名画・清明上河図──北京故宮の至宝、その真実』
東京国立博物館で現在開催中の「北京故宮博物院200選」も会期がそろそろ終わりに近づいているが(2月19日まで)、行列待ち4~5時間と聞き、おそれをなして多分行かずじまいになりそうだ。展示の目玉は「清明上河図」。ただし、HPで確認したところ本物の展示は1月24日までで、以降はレプリカらしい。
野嶋剛『謎の名画・清明上河図──北京故宮の至宝、その真実』(勉誠出版、2012年)を読んだ。「清明上河図」は北宋の張擇瑞が描いたとされる。模本も世界中に散らばっており、張擇瑞のオリジナルに触発されて後代に描かれた作品も含め、この絵画の様式的ジャンルを「清明上河図」と総称していると捉えても必ずしも間違いとは言えない。名画の誉れが高いのはもちろんだが、題名の由来も諸説あるらしいし、色々と分からないことも多いようだ。たかが一幅の絵画とはいえ、そこにまつわる謎の数々はスリリングで興味が尽きない。宮廷から盗まれては戻ってきて…と何度も繰り返された流転の来歴、絵画中に写実された宋代の生活風景──本書はこの作品が背景に持つストーリーを存分に語り出してくれる。著者による『ふたつの故宮博物院』(新潮選書、2011年)と合わせて読むといっそう興味も深まるだろう。
「清明上河図」は張擇瑞が北宋の徽宗(画家として有名だった皇帝、靖康の変で金に捕まった)に献上されて宮廷の収蔵品となったが、金によって北方に持ち去られる。王朝が代わって元代にいったん盗み出されたが、持ち主を転々とした末、明代に宮廷に戻ってきた。しかし再び盗まれ、清代に三たび戻る。辛亥革命後、紫禁城に蟄居していた溥儀の命令で弟の溥傑が持ち出し、天津の張園にしばらく留まった後、満洲国の成立と共に新京(長春)に移転。戦後の混乱でしばらく行方知れずとなったが、1950年、今度は瀋陽で楊仁愷の目利きによって見つけ出される。遼寧省博物館に所蔵されたが、1953年に北京の故宮博物院に貸し出され、そのまま故宮博物院への所属が決められた。故宮博物院の収蔵品の大半は蒋介石によって台湾に持ち出され、ほとんどスカスカに近い状態となっており、しかも中国美術の粋たる書画の一級品がとりわけ少なかったからという事情があるらしい。
「清明上河図」で描かれているのは当時の開封の街並みである。文人好みの花鳥風月ではないため、中国の文化的伝統の中で言うと決してハイクラスに位置づけられるわけではない。それでもこの作品が長らく注目を浴びてきたのは、そこにヴィヴィッドに描き出された庶民の生活光景が見る者の眼を引き付けてきたからであろう。本書の後半、作品中のモチーフを手がかかりに当時の料理や日常生活も再現されているところが面白い。開封にあるテーマパークや、CGで再現された「動く清明上河図」などに現代の中国人が興味津々たる表情を示しているのもむべなるかな。
本書を読んでいるうちに実物を見たくなってきた。北京に行く機会があったら是非参観しに寄ってみよう。
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