島田虔次『中国革命の先駆者たち』
島田虔次『中国革命の先駆者たち』(筑摩叢書、1965年)
◆梁啓超「亡友夏穂卿(夏曾佑)先生」の訳。
◆梁啓超「支那の宗教改革について」(『清議報』19、20号、1899年)の訳。
・孔子の教えの間違った解釈によって愚民化という問題意識。康有為が公羊学による『春秋』の解釈。従来の教えは「小康」、自分たちが奉ずるのは「大同」。
・進化主義(拠乱世→升平生→太平世。ダーウィン、スペンサーの進化論にも言及)であって保守主義ではない。
・平等主義であって専制主義ではない。小康派は君権を尊重、大同派は民権を尊重。
・兼善主義であって独善主義ではない。仏教の菩薩行を引き合いに出して孔子も同様とする。
・強立主義であって文弱主義ではない。
・博包主義であって単狭主義ではない。仏教を引き合いに出しながら思想的多元性を指摘。
・重魂主義であって愛身主義ではない。
◆梁啓超「言論界における私の過去と未来」(『庸言報』創刊号、1912年12月)の訳
・これまで立憲を主張していたのだから共和制になったらお前には発言権はないはずだ、という非難への反論。
◆ある革命家の遺書→陳天華の「絶命書」「獅子吼」を紹介。
◆中国のルソー→黄宗羲『明夷待訪録』の「原君」「原臣」など。
◆章炳麟について──中国伝統学術と革命
・張王渠の清虚一大の哲学は「気」に第一性をみとめるところの「唯物論」、朱子の性即理の哲学は「理」に第一性をみとめるところの「客観唯心論」、陸王学の心即理は「心」に第一性をみとめるところの「主観唯心論」。これらに対して思弁を排した考証学。章太炎は考証学のうち最も成果のあった小学=国語学の分野を学統としてついでいる。
・仏学をもって国家を救おうとする太炎の説→華厳の菩薩行と唯識の哲学。唯識は考証学、科学に似ていると言うが、そればかりでなく明末の王夫之や黄宗羲も唯識に関心を持っていたことに注意を喚起。
・音韻学、諸子学の開拓などの業績。
・1903年、蘇報事件で投獄→獄中で『因明入正理論』『成唯識論』『瑜伽師地論』などを読破。
・太炎の主張した革命とは「光復」である。満州族のために汚され奴隷化された中国の文明と民生とに再び輝きを取り戻すことに他ならぬ。
・清朝末期において考証学への不信の念、康有為・梁啓超は明治維新における陽明学の役割を紹介、そうした中で考証学の学統を受け継いだ太炎はどのようにして革命と結び付けたのか?→民族の歴史を美醜善悪ともに正しく知ることによって生まれる民族への愛情、これこそ太炎において学問と革命とを媒介する当のものに他ならない。革命の原理たる民族主義。「民族の独立は、まず国粋(国学)を研究することが主であり、国粋は歴史が主である。その他の学術はみな、普通の技にすぎない。」孔子は民族に歴史を与えた点に功績。康有為たちが孔教を唱えて孔子を崇拝するのは見当違い。「わが民族性は、心をくばるのは政治・日用、はげむのは工商農耕であって、関心は生の領域を超えず、超経験のことは一切語らない。追求するは自我の尊厳であり、神を真の主宰者と仰いで死を賭してこれに仕えようなどとはしないのである。」
・六経に記載された「事」→性理学ではそこに「道」「義」が示されていると考え、その把握・実践を志す一方、客観的「方法」には無関心。考証学は「事」の事実的確定を目指す一方、単なる資料と見る心情の麻痺をももたらした。ウェスタン・インパクトによって「事」と「道」との分離→康有為・梁啓超たちが「道」の内容を「進化」「公理」「民権」によって把握しようとする。太炎にとっては単に「事」の記された「経」→「中華の民」の「礼俗」という「事」が記されていること自体が貴い所以→考証学であっても聖人の「道」を前提としていたが、こうした枠組みをも超えてしまった→もはや考証学でも儒学でもない、「国学」であるという転回。
・政府の絶滅、聚落の絶滅、人類の絶滅、生物の絶滅、世界の絶滅を説いた「五無論」については、そこから何か深遠なものを引き出そうとする論者を批判。太炎はよく「純粋に超人超国の説」と当面の急務との区別を説くが、前者が後者を規定いるとは考えられない。民国成立後まで視野に入れると感じられない。むしろ、この時期になぜこのように激昂した「仏声」をなしたことの意味に大きな問題がある、と指摘。
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