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2012年2月 9日 (木)

佐藤百合『経済大国インドネシア』

佐藤百合『経済大国インドネシア』(中公新書、2011年)

 インドネシアが経済的に台頭しつつあることは報道等でもちろん知ってはいたが、本書の体系的立てた説明を読んでみると、日本が資源目当てに「南進」をもくろんだり、スカルノやスハルトが権威主義的支配を行っていた時代は、本当に過去になったのだな…と改めて実感する。今後は投資ばかりでなく内需の取り込みが日本企業の課題となってくるわけだが、インドネシア自身が安定的・持続的に発展をしていく上でカギとなるのが、人口ボーナス(詳細は大泉啓一郎『老いてゆくアジア』[中公新書]を参照のこと)。人口ボーナスによる効果を十分に活かすには、どのような政策対応をするかが重要となる。細かな話になるが、インドネシアを皮切りにイスラム世界を市場として考える場合、ハラル(イスラム法で許される食物や日用消費財)認証制度が国際化していく可能性は興味深いだろう。

(以下、メモ書き)
・インドネシアは人口規模が大きいだけでなく、今後20年間は人口ボーナス(出生率が低下し始め、生産年齢人口が総人口に占める比率が高まる→経済成長を促進)が期待できる。ただし、そうした条件が備わっていても効果的な政策がなければ活用できない→①出生率低下を持続させる、②生産年齢人口に就業機会を与える、といった政策を打ち出す必要。
・スハルト時代の権威主義体制と比較しながら、現在の民主主義体制における経済運営のあり方を考察。スハルト辞任で、後継のハビビは政権の正当性を確保するためスハルト的なものを全否定→その後の政治混乱で「スハルト的ならざるもの」もまた否定された→こうした振り子が揺れ動く中で、現在は自由と人権の保障、三権分立、直接選挙、地方自治など安定的な民主主義体制の要素が徐々に備わってきた。
・インドネシア国内の大資本はパーム油や石炭等の資源輸出の担い手となったが、中国から流入する廉価の工業製品との競合を避けて重工業から足を抜きつつある→資源輸出と工業製品輸入という中国との非対称的貿易の拡大、「オランダ病」現象。他方、外国資本は国内資本が投資を回避しがちな重工業で重要な役割→外資は工業化と域内水平貿易の担い手。
・農工間雇用転換を伴わない経済成長→農業にも成長エンジン。スハルト時代は、国家の意志としてフルセット主義(自国内で様々な産業分野の育成を図る)から工業化政策を推進→工業部門が成長のエンジンとなっていた(アーサー・ルイスの「二重経済論」があてはまる)。対して、現在の民主主義体制では、成長のエンジンが複数の産業に分散→こうした既存の傾向を政府は追認したと把握→フルセット主義Ver.2.0(ユドヨノ政権のマスタープラン)
・労働力、投資(国内の貯蓄率が高い)などの面では問題ないにしても、生産性に難あり。
・スハルト時代から重きをなしてきた海外留学経験者の経済テクノクラート(バークレー・マフィア)。
・国防・治安だけでなく政治・社会統治機能も国軍が担っていたかつての「国軍の二重機能」(対オランダ独立闘争で農村社会と一体になったゲリラ戦を戦い抜く中で国軍が生れたという経緯がある。また、出自や生育環境に左右されないほぼ唯一の能力主義組織が国軍だったという事情もある)→現在は政治エリートになるルートが多様化、政党政治家になるほか、企業家から政治家へ転身するというルートも目立つ。
・インドネシアにとって貿易、投資、援助のどの点でも日本は最重要国。しかし、すでにインドネシアは高位中所得国入りを目前にひかえており、日本はインドネシアを単に資源の供給源とみなすのではなく、今後は内需と技術蓄積への貢献を考える必要がある。日本ブランドを活かした消費財・サービスの提供はチャンスになる。イスラム世界を市場と考えるなら、ハラル認証制度は活用できる。

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