【展覧会】「ルドンとその周辺──夢見る世紀末」
三菱一号館美術館で開催中の「ルドンとその周辺──夢見る世紀末」を観に行った。巡回展だが、今回は三菱一号館所蔵「グラン・ブーケ」が展示されていることが特色とされている。
オディロン・ルドンと言えば、あのギョロッとした「一つ目」の印象が昔から強烈だった。例えば、ギリシア神話のキュクロプスだったり、眼球そのものが気球のように浮揚していたり。気球というのも時代がうかがえる題材らしい。パリ・コミューンの崩壊に当ってガンベッタが気球を使って脱出したり、ヴィクトル・ユゴーの肖像をあしらった気球が飛ばされたり、といった話題が紹介されていた。ちなみに、ルドンが好んで描いた眼球のモチーフは、水木しげるが目玉おやじのモデルとしたことでも知られている。
もちろん目玉ばかりではない。当初におけるモノトーンの画面は、この世ならざる幻視の世界を描き出すのに格好の舞台だ。1890年前後以降、「目をとじて」シリーズを境としてカラフルな彩りへと移り変わっていく。ここには、ある種の精神史的ドラマが伏流していそうで前から関心が引かれていた。なお、今回展示されている「オフィーリア」も「目をとじて」シリーズの一環になるのだろうか。ジョン・エヴァレット・ミレーの「オフィーリア」とはまた違ったおもむきがある。
ルドンの師匠だったブレンダンや、同時代の画家たちの作品と並べ、彼が生きていた時代の雰囲気が分るような展示となっている。ルドンの作品は単に幻想的というのではなく、進化論や植物学、天文学、心理学など19世紀における先端科学の知見を取り込み、後期になると象徴主義や神秘主義の影響も受け、昇華させているのをキャプションで知った。
「絶対の探究─哲学者」(1880年)という作品が目を引いた。キリスト教神学を示す三位一体の輝く三角形。その後に見える黒い太陽はメランコリーを表わすそうだ。メランコリーと言えば、エドガー・アラン・ポーに献げた石版画集もあり、ルドンのモノクロの世界はまさにメランコリーそのもの。黒い太陽は、眼球のモチーフとつながりを感じさせる。そして、これらを聳え立った山の高みから道化師の面をかぶった小人が見下ろしている。コンセプチュアルに整理されすぎという感じもするけど、ルドンが生きた19世紀の思潮が象徴的に表現されていると言ってもいいのだろうか。
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