ヘンリー・キッシンジャー、ファリード・ザカリア、ニーアル・ファーガソン、デビッド・リー(李稲葵)『中国は21世紀の覇者となるか?──世界最高の4頭脳による大激論』
ヘンリー・キッシンジャー、ファリード・ザカリア、ニーアル・ファーガソン、デビッド・リー(李稲葵)『中国は21世紀の覇者となるか?──世界最高の4頭脳による大激論』(酒井泰介訳、早川書房、2011年)
個々の論点はともかく、中国の台頭は同時に西洋の没落と表裏一体の問題だ、という議論の枠組みが基本となっており、このような認識が向こうで一般的に定着していること自体が興味深い。先日読んだばかりのZbigniew Brzezinski, Strategic Vision: America and the Crisis of Global Power(Basic Books, 2012)もこのような議論枠組みがすでに前提となっていることへの批判から説き起こされていた(ブレジンスキーは、中国が超大国化してもアメリカに代わって一極集中になるわけではない、グローバルな秩序を安定化させる役割は依然としてアメリカしか果たせないと主張)。
アジア(かつては日本、現在は中国)の台頭が西洋の衰退を招くという議論は、日露戦争後の「黄禍論」、第一次世界大戦後の「西洋の没落」(シュペングラー)などが想起されるように既視感も覚える。これを、繰り返される陳腐な印象論に過ぎないと見るのか、それとも100年、200年という単位での大きな世界史的構造変動がいまだに進行中と捉えるべきなのか。討論者たちはここまで注意を払っていないが、私としては気になるところ。
李稲葵が、中国はむかし唐の時代に得ていたような尊敬や自信を取り戻したいと思ってはいるが、アメリカの覇権に挑戦する気はないと念押しする一方、ファーガソンがやたらと中国台頭を高評価しているのが印象的。ザカリアは、かつて日本が世界を席巻すると言われたが現状はどうだ? 中国だって経済成長が直線的に持続するわけではない、と反論。
中国の台頭を前提とした上で、大国化した中国と西欧はいかにうまく付き合っていくかを考えるべき、というキッシンジャーの意見が穏当だろう。リベラル派の国際政治学者ジョン・アイケンベリーは、既存の世界秩序の転覆による勢力拡大をかつて目論んだソ連やナチス・ドイツとは異なり、現代における中国の台頭は既存の秩序の枠内に収まっており、脅威視する必要はないと指摘していた(確か『フォーリン・アフェアーズ』誌だったと思う)。タカ派とされるキッシンジャーの議論も同様の方向に収斂していると言える。
そう言えば、キッシンジャーの最新刊On China(Penguin Press)が昨年刊行されたが、どっかの出版社が邦訳刊行を準備中なんだろうな。
| 固定リンク
「国際関係論・海外事情」カテゴリの記事
- ジェームズ・ファーガソン『反政治機械──レソトにおける「開発」・脱政治化・官僚支配』(2021.09.15)
- 【メモ】荒野泰典『近世日本と東アジア』(2020.04.26)
- D・コーエン/戸谷由麻『東京裁判「神話」の解体──パル、レーリンク、ウェブ三判事の相克』(2019.02.06)
- 下斗米伸夫『プーチンはアジアをめざす──激変する国際政治』(2014.12.14)
- 最近読んだ台湾の中文書3冊(2014.12.14)
コメント
On Chinaはどうやら3月末に岩波から出るようですね。
投稿: FP | 2012年2月12日 (日) 22時31分
情報ありがとうございます。ネットで検索してみましたが、『キッシンジャー回想録 中国』(全2冊)でしょうかね。
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/023874+/top.html
投稿: トゥルバドゥール | 2012年2月12日 (日) 22時49分
私も翻訳に参加した『キッシンジャー回想録 中国』上下2巻が岩波から3月28日に出ています。
投稿: 横山司 | 2012年3月30日 (金) 14時48分
横山様、わざわざ情報をありがとうございました。
実は、つい先ほど書店で見つけて購入したばかりです。
面白そうですので、しっかり読んでみたいと思います。
投稿: トゥルバドゥール | 2012年3月30日 (金) 15時39分