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2012年1月21日 (土)

閻学通『古代中国の思想と現代中国のパワー』

Yan Xuetong, ed. by Daniel A. Bell and Sun Zhe, tr. by Edmund Ryden, Ancient Chinese Thought, Modern Chinese Power, Princeton University Press, 2011

 以前、バイデン副大統領が訪中前に本書を読んだという記事を何かの雑誌で見かけた覚えがあった。そんな情報が敢えて表に出るということは、アメリカ政府は中国政府の外交方針について本書を通して理解している、という暗黙のメッセージなのかと思い、興味を持って手に取った次第。著者の閻学通は清華大学国際問題研究所所長で、中国政府のアドヴァイザーとして知られている。

 第一部は閻学通の論文3本、「先秦国際政治哲学の比較研究」(A Comparative Study of Pre-Qin Interstate  Political Philosophy)、「荀子の国際政治哲学とその今日への示唆」(Xunzi's Interstate Political Philosophy and Its Message for Today)、「『戦国策』における覇権」(Hegemony in The Stratagems of the Warring States、Huang Yuxing[黄宇興?]との共著)を取り上げ、第二部でそれぞれについて別の研究者によるコメント、第三部で閻学通の反論的な結論という構成。

 現代の国際関係理論はグロチウスの国際法思想から始まっているし、さらにさかのぼってトゥキュディデス『ペロポネソス戦争史』がしばしば引用もされるのだから、西欧思想に淵源を持つ側面が強い。この点を考えると、古代中国の思想家たちの議論を対比させることは国際政治理論一般への理解を深めるのに寄与するはずだと言う。もちろん時代的制約があるので、歴史的背景は捨象して国際政治理論として活用できる要因のみを抽出して議論を組み立てていく。

 現代の中国は鄧小平時代の経済成長優先から積極的な外交政策へと転換しているという認識が本書の前提となっている。中国は超大国(superpower)へと向けて軍事増強をするにも平和的環境の中で行わなければならなず、また安全保障システムや国際規範の形成に向けて積極的に関与していくという問題意識を示す。先秦期の思想家たち(韓非子を除く)が覇権(hegemony)的ポジションを得るには「徳」(humane authority)によって他の諸侯国からの認知を受けることが必要と論じていたことからヒントを導き出し、現代中国にとって指針になると指摘する。彼の議論における超大国志向は、彼自身が国益重視のナショナリストであるというだけでなく、理論的にはケネス・ウォルツやジョン・ミアシャイマーなどのネオ・リアリズムや攻撃的現実主義が踏まえられていることにも留意する必要があるだろう。

「先秦国際政治哲学の比較研究」についてメモ
・conceptual determinism(≒構築主義)、dualism、materialist determinism(≒リアリズム)/system、state、individualという二つの軸で、老子、墨子、管子、韓非子、孔子、孟子、荀子を配列しながら分析。
・先秦期の思想家たち(韓非子はmaterialist determinism/state→リアリズムなので除く)は政治アクター自身が国家間関係をどのように受け止めるかという点を重視→構築主義(constructivism)や国際政治心理学と同様。
・覇権的なポジションを得るのは、その国自身が決めるのではなく、「徳」(humane authority)に基づき他の諸侯国からの支持があってはじめて成功する。

「荀子の国際政治哲学とその今日への示唆」についてメモ
・支配者や大臣たちの考えに従って国は指導される→国内要因決定論:支配者の考え→大臣たちを採用→政策の方向性を決める→国家のタイプが決まる→国力の変化、外交関係のあり方、国際秩序に影響。人材登用が国力を高める→人材が必要(かつては統治者としての能力だったが、現代では経済運営の人材が必要)
・荀子の性悪説→人間は利己心があるが、規範に従う内在要因もある→ロバート・コヘインやジョゼフ・ナイたちのネオリベラリズムに近いと指摘(国際関係論におけるネオリベラリズムはアナーキーな世界の中でも規範や制度によって協調行動を取る点を強調している)。
・中国が「徳」に基づいて超大国となるには、他国がならいたくなるような魅力的なモデルを中国自身が築き上げる必要。ソフトパワーは文化的パワーと政治的パワーとを区別しないが、荀子が公正さの概念として用いる「徳」は指導者のイデオロギーである点で異なる。
・大国と小国とではそれぞれ国力に応じて権利や責任も異なる。指導国のリーダーシップのあり方に応じて、国際的規範の内面化の方向やスピードが違ってくる→ゆるやかなヒエラルキーによって紛争防止を図る。

「『戦国策』における覇権」についてメモ
・『戦国策』に登場する戦略家たち、具体的には蘇秦の合従(vertical union)や張儀の連衡(horizontal union)などを取り上げ、ヘゲモニーに対する規範の関係、規範遵守と武力行使との関係、新たな規範の創出と古い規範の保持との関係を分析。同盟の形成には信頼醸成が必要。
・ブッシュ政権のユニラテラリズムの失敗→規範の重要性。
・現代の国際政治理論はマテリアルな要因(領土、人口、経済、軍事)を重視するが、本書では先秦期の戦略家たちを通して、国家的政治力の核心としてリーダーシップを重視。国家的政治力はリーダーのモラルと彼がどのような政策をとるかによる→政策を立案する人材が国力の指標となる→人材を求めるシステムの構築が必要→中国も国境を開放して移動の自由を認めるべき、人材はより良い条件の整った国へと移動するはず。
・国際秩序における重心の移動は人為的活動の結果→リーダーシップによる変化が指標となる。
・時代が変わればかつて効果的だった戦略もすたれる。歴史から見出されたパターンを繰り返しても意味がない。そこで、ヘゲモニーを獲得する戦略はどのように生み出されたか? 効果的戦略を生み出す基本原則は何か?を考えるべき。

巻末には閻学通が自分の生い立ちや考え方を語ったインタビューを収録
・ロジカルで、曖昧なものは嫌いという性格。ナショナリスト、リアリストであることは自他共に認められている。
・もともと内気な性格だったが、文革時の下放で苦労して鍛えられた。その代わり中等教育を受けられなかったので数学などが身につけられずいまだに苦手。また、五四運動や文革によって中国の伝統文化は破壊されてしまったので、古典を読むのに困難を感じる。
・台湾問題についても研究。経済を通して政治問題の解決へと促していくという従来の方針に対して1994年から反論を行い、台湾独立運動を抑圧せよと主張、これは2004年5月17日に共産党によって採択されたと言う。

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