松戸清裕『ソ連史』、下斗米伸夫『ソ連=党が所有した国家 1917─1991』
ソ連の歴史を記述するに際しては、出発点としてのロシア革命、抑圧的な体制が形成されたスターリンの大粛清、もしくは連邦崩壊に至るペレストロイカといった時期が大きく注目される印象がある。松戸清裕『ソ連史』(ちくま新書、2011年)はその合間の時期の記述が厚く、内政面の事情を中心に描かれており、全体としてバランスのとれたソ連の通史。以下の3点が基本的な視点となっている。
・冷戦の敗者というイメージ→ソ連側の人々も必ずしも戦争を望んでいたわけではない。
・共産主義建設という実験の失敗により国民に犠牲を強いたのは事実だが、多くの人々が主観的には共産主義建設が国民のためになると信じていた。
・共産主義の抑圧的な体制→一党支配体制において有権者の支持を求めて他党と競う必要がないにもかかわらず、ソヴェト政権には「説明し、理解させ、協力を得る」という基本的な態度があった→プロパガンダによる国民の動員というだけでなく、政策目標に向けて人々の理解と協力が必要という認識があった。祝祭としての選挙。しかし、実際には社会の隅々まで統制が行き届く状況にはならなかった。
合わせて読んだ下斗米伸夫『ソ連=党が所有した国家 1917─1991』(講談社選書メチエ、2002年)は、スターリン時代のナンバー2であり、ゴルバチョフ時代まで生き残ったモロトフに焦点を合わせてソ連の歴史を考察。まさに体制内にいた人物の視座から、抑圧的な体制の形成過程及びそれが内政・外交に影響を与えていく様子が描き出されていく。
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