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2011年12月13日 (火)

ステファン・ハルパー『北京コンセンサス──中国流が世界を動かす?』

ステファン・ハルパー(園田茂人・加茂具樹訳)『北京コンセンサス──中国流が世界を動かす?』(岩波書店、2011年)

 新興国の経済的台頭が著しい一方で欧米など西側諸国の経済の地盤沈下が目立つ近年の国際情勢。それは単に経済的脅威ではなく政治社会体制の理念というレベルにおける脅威として本書は捉える。すなわち、新興国の間では西側の市場経済‐民主主義というモデル(ワシントン・コンセンサス)ではなく、中国の市場経済‐権威主義体制という国家資本主義モデル(北京コンセンサス)が広まり、今後の国際秩序に影響するという論点を示し、それを踏まえてアメリカ政府はどのように対応すべきかを提言するのが本書の趣旨。

 訳者解説でも言及されているように、本書では中国イメージは一面的に捉えるわけにはいかない複雑さがあるとたびたび指摘されるわりに、「国家資本主義」という中国イメージは非常に明快である。イアン・ブレマー(有賀裕子訳)『自由市場の終焉──国家資本主義とどう闘うか』(日本経済新聞出版社、2011年)とほぼ同様の内容で、これといって目新しい印象はない。むしろ、近年よく見かける中国論の一つの典型的議論がまとまっているものとして読む方が良いだろう。日本の読者にとっては、アメリカ政府内における対中政策の動向についてパンダ・ハガー(親中派)とパンダ・バッシャー(対中強硬派)の二つのグループとしてまとめているところが役立つだろうか。

(以下はメモ書き。※は私のコメント)
・国家資本主義ではビジネス上の決定が政治アクターによる誘導を受けやすい→経済原理よりも政治的動機による投資。
・中国の対外援助政策や経済活動→人権蹂躙や政治腐敗の目立つ独裁政権を援助。中国の進出著しいアフリカ諸国を例に取り、貧困から抜け出すため経済発展を進めるには原材料輸出、低品質商品の市場という現在の立場から脱却する必要があるが、中国との取引はそれを阻害している。中国は財力にものを言わせて途上国との関係を構築していると指摘。
※他方で、経済発展のためにはインフラの整備が必要→アフリカ諸国における中国への原材料輸出は物々交換的な形でインフラ投資に役立っているという指摘もある。開発経済学の方ではアフリカにおける中国の経済活動のマイナス面ばかりでなくプラス面もフェアに評価しようという動向もあることに留意。例えば、Deborah Brautigam, The Dragon’s Gift: The Real Story of China in Africa(Oxford University Press, 2009→こちら)、Sarah Raine, China’s African Challenges (Routledge, 2009→こちら)、Ian Taylor, China’s New Role in Africa,(Lynne Rienner, 2009→こちら)などを参照のこと。
・中国は国内の不満をそらすためナショナリズムと経済発展の持続が必要不可欠。中国の経済発展は国家資本主義体制によって推進されている以上、西側の基準に合わせてリベラルな国際秩序に同意することはあり得ない。この点で中国に対して幻想を抱くべきではないと主張。
※他方で、例えば第一次・第二次世界大戦におけるドイツや革命初期のソ連が既存の国際秩序をひっくり返すことで勢力拡大を狙ったのとは異なり、現在における中国の台頭は既存の国際ルールの枠内にある、したがって必要以上に脅威視すべきではないという議論があるが(G. John Ikenberry“The Rise of China and the Future of the West : Can the Liberal System Survive?” Foreign Affairs, 2008 Jan/Feb)、本書はこうした立場に対しては批判的ということになる。
・中国は独自の思惑で国際秩序に参加しているという現実を直視すること、またアメリカは依然として覇権国であるという立場を活用すべきことを主張。もちろん、アメリカ一国ですべてが解決できるわけではないが、アメリカなしでは問題解決はできない。アメリカは他国(インド、ロシア、日本など)の支援を得て多国間協調の枠組みをつくり、そこを通して中国へ働きかけていくべき。この際の国際的合意に向けてイニシアティヴが取れるかどうかがカギとなる。

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