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2011年10月30日 (日)

【映画】「ゴモラ」

「ゴモラ」

 原作を私は未読だが、ナポリに拠点を置く利益至上主義的な犯罪組織「カモッラ」の暗部をあばいたノンフィクションに基づくという。著者は命を狙われ、常に警護を必要とする状況にあるらしい。

 一人前の大人になりたくて組織入りを志願する少年。自信過剰で組織に楯突き、結局消されてしまう向こう見ずな青年二人組み。抗争から距離を置きたいと願う小心者の運び屋。非合法の産業廃棄物ビジネスに手を染める男とその部下の若者。工場経営者との折り合いが悪いベテランの仕立て職人。様々な人物群像を通して、この犯罪組織のみならず、現代の社会的矛盾を浮き彫りにしていく構成。映画宣伝のキャッチコピーでは「ゴッドファーザー」+「シティ・オブ・ゴッド」となっているが、むしろアメリカにおける麻薬戦争を様々な当事者の織り成す群像劇として立体的に描き出したスティーブン・ソダーバーグ監督「トラフィック」の方に雰囲気は似ているという印象を持った。

 マフィアの抗争は非情である。ただし、例えば「ゴッドファーザー」などでは確かに殺しのシーンは非情であるにしても、そこには家族の結びつきや義理人情などが絡み、裏切りと復讐、そうしたウェットな動機がドラマを盛り立てる要因となっていた。しかし、この映画に現れる「組織」ではそうしたウェットなものが感じられないところに一つの特徴があるように思った。

 こうした点で、仕立て職人のパスクワーレをめぐるエピソードが並行して描かれていることが目を引く。工場経営者は売上の落ち込みをカバーするため格安の価格と納期の早さで強引に仕事を受注してきたが、残業を強いられることになる従業員との信頼関係は冷え切っている。現場責任者として悩んでいるパスクワーレは、たどたどしいイタリア語を話す中国人から、縫製の講習会の講師をして欲しいと頼まれた。連れて行かれた工場には、おそらく非合法に入国したのだろうが多数の中国人労働者たちが集まっていた。最初は胡散臭く感じていた彼だが、敬意をもって教えを請われ、彼らの熱心さを見ているうちに表情が明るくなってくる(その直後でストーリーは暗転するのだが…)。つまり、職人としてのプライドややりがいを取り戻したということだ。

 裏社会であっても、職人の世界であっても、本来その人間関係を成り立たせていたはずの義理人情による信頼関係、プライド、やりがい、そうした感覚が失われている様子がこの映画から見えてくる。残るのはただのつぶし合いということになるのではないか。単に犯罪組織の暴力性というだけでない。私自身は資本主義経済に対して必ずしも反感は持っていないが、他方でそのロジックが一人歩きを始めてマイナス面で作用してしまった時に現れる関係性の非人格化という問題はなかなか解きがたい。経済先進地域であるイタリア北部で出された産業廃棄物を農業地帯の南部に投棄する非合法の仕事に疑問を感じた若者が、上司に抗議してやめるシーンもここにつながってくるだろう。そして、「組織」に消された若者二人組みは、まさに産業廃棄物のように浜辺に捨てられる。物理的な暴力以上の、目に見えないからこそ一層ハードな暴力性がこの映画のテーマと言えるだろうか。

【データ】
監督:マッテオ・ガッローネ
135分/イタリア/2008年
(2011年10月29日、渋谷、シアター・イメージフォーラムにて)

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