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2011年10月30日 (日)

【映画】「サウダーヂ」

「サウダーヂ」

 地方都市の沈滞が言われ始めてしばらく経つ。どこを訪れてもシャッター通りの光景を目にすることがしばしばだ。活気がない。しかしながら、そこで生活している人々も確かにいる。甲府を舞台としたこの映画で描かれているのは地方都市独特の“多文化”的な人間模様である。いまや斜陽産業の代表格とも言うべき建設業。ヒップホップをしながら生計を立てるため派遣で働く若者。失業した日系ブラジル人たち。パブで働くタイ人ホステス。彼らが織り成す悲喜こもごもは、グローバルな経済社会の動向を一つの視点から照らし出している。

 サウダーヂ(saudade)とはポルトガル語で「故郷」という意味らしい。映画中で山王団地というのが出てくるのだが、そこが事実上日系ブラジル人コミュニティーとなっているという話題のやり取りで、山王団地→saudadeと聞き違えるシーンがあった。

 日本人男性とのハーフのタイ人女性(「バブルの遺産だな」というセリフがあった)は来日したものの父親は亡くなり、ホステスをしている。タイか日本か、国籍選択を迫られているのだが、故郷のタイに残してきた家族へ送金し続けるため日本国籍を選ぼうと考えている。しかし、そのホステスに入れ込んだ土方の男は「こんな日本なんかイヤだ、一緒にタイに行こう」と持ちかける。タイに行ったところで事態は何も変わらないのに。

 日雇い労働をしながらヒップホップをしている若者は、日系ブラジル人のヒップホップ・グループの実力を見せつけられた。かなわない自分たちへの焦り、さらに女をとられた腹いせもあって、そのグループのリーダー格の男を殺してしまう。家族が崩壊した生活苦の中でやり場のない鬱屈感が排外主義的感情と結び付いてしまった姿が彼を通して示されている。

 日本人同士の会話では他人への悪口がやたらと目立つ。また、土方の男がタイへと逃げ出したいという動機には自立して働く妻への不満もあった。仲間や家族との結びつきがほどけてしまっている姿は、日系ブラジル人たちの仲間意識の強さや、故郷へ送金するために働くタイ人ホステスの家族愛と際立った対照として印象付けられる。故郷から離れて異国で暮らす彼らとは違い、いま故郷に暮らしているにもかかわらず、何もなくなってしまったこの平板な土地に愛着がなくなり、文字通り地に足が着かない様子は痛々しい。

 逃亡願望の男。やけっぱちになってしまった若者。「ラブ・アンド・ピース」とうすっぺらな理想論ばかり饒舌に語る女。何かが遊離して空回りするばかりで、足元が見えなくなってしまっている。単に生活苦というだけでなく、先が見えない気だるい絶望感。苦しくても何かのために今を踏ん張るという考え方ができればいい。しかし、自分たちの将来に希望が持てないという無力感に苛まれている現実を直視することはいっそう過酷なことだ。実にきつい。観ながら、言い知れぬ居たたまれなさを感じていた。

【データ】
監督:富田克也
2011年/167分
(2011年10月30日、渋谷、ユーロスペースにて)

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