川本三郎『銀幕の銀座──懐かしの風景とスターたち』
川本三郎『銀幕の銀座──懐かしの風景とスターたち』(中公新書、2011年)
東京にながらく暮らしてきた者としてこの街には愛着がある。とは言っても、私自身が実際に目にしてきた東京は1980年代以降、バブル期の地上げ等によって再開発が進んだ光景であって、それ以前の「東京らしい東京」というのは写真や映像資料などでしか見たことがない。普段見慣れたつもりの街並も、かつてはこんな光景だったんだという新鮮な驚きがあって興味が尽きない。
私は映画を観るとき、いつも風景に注目する。たとえストーリーはつまらない場合でも、映し出された風景に味わいを感じることがある。かつての東京の風景を見るには、CGを駆使してノスタルジックな雰囲気を再現した「Always──三丁目の夕日」も悪くないけど、やはり同時代のロケで撮影された昭和の古き映画で見てみるのも面白い。
本書は『銀座百点』に連載された映画エッセイを基にしており、昭和11年の「東京ラプソディ」から昭和42年の「二人の銀座」まで計36本が取り上げられている。『銀幕の東京──映画でよみがえる昭和』(中公新書、1999年)の続編という位置付けになる。
作品それぞれのプロットをたどりながら、目についたランドマークとなる建物やその界隈の風景について言及される。著者自身がまだ若き頃に目の当たりにした印象、さらには時代背景も語られ、いつもながらに穏やかな筆致から当時の雰囲気が浮かび上がってくるところは読んでいて心地よい。取り上げられた映画のほとんどを私は知らなかったが、それでも十分に楽しめた。
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コメント
「ゴモラ」って怪獣映画なんて最近リメイクでもされたんかいなぁ、と思ったらあのルポの映画化なんですなぁ。
広島に足場を置くワシとしては、じっくり読もうと思って未だに機会を逃している
「昭和の劇…映画脚本家・笠原和夫」
そして、
広島市・近隣の呉市に、父親が十字架をかかげない独立教会を開いたため、暮らすことになる田中小実昌氏の遺した作品群を読み直したくなる。
そんな映画のラインナップと川本三郎氏の著作です。
ところで、広島絡みで映画を観直す時、ワシにとって御大・新藤兼人監督のものは外せないのですが。
気になるものに、東京を舞台に撮った「狼」があります(DVD化されてます)。
御覧になったことあります?
もし、引き具合が良ければレビューをリクエストしたいのですが。
投稿: 山猫 | 2011年11月 1日 (火) 13時09分
いつもコメントをありがとうございます。
広島にいらっしゃるんですね。
山猫さんのオススメはいつもシブくて、そんな本や映画があったのか、という驚きが楽しいです(単に私の教養不足ですが…)
昭和の映画というのは興味はあっても、限られた時間の中でどれだけ観ていけるか。
その「狼」という作品も含め、色々観てみたいです。
投稿: トゥルバドゥール | 2011年11月 1日 (火) 23時25分
教養を引き合いに出されると土下座するしかないのですが。(笑)
かつての旧制高校の“かくあるべき教養”をずらしてゆくようなトゥルバドゥールさんの“読み”の積み重ねは、ため息ものです。
そうそう、ずっと興味を持ちながら、中途半端で放り出して読み込めていない方に故・中野清一氏がいます。
小樽商高では多少なりとも小林多喜二氏と交流があったようです。大学で社会学を学んだ後、満州建国大学で教鞭をとられたこともあり、国家と民族に関する論文も遺されています。
氏の名前を知ることになったのは、戦後原爆孤児の社会学的調査をきっかけに孤児達の厚いサポートを続けることになる「あゆみ会」の屋台骨・中野清一のことからでした。(氏自身、入市被曝をされていたと記憶するのですが)ちょうど全国でサークル運動が展開された時代でもありました。
詳しく知りたい、と思った頃には亡くなられており、まとまったものもない状態。
氏の歩んで来た道筋を確かめたくてしょうがないところです。
まぁ、研究者でもモノカキでもないですが。
日本人が書くべき
ジョン・W・トリート「グラウンド・ゼロを書く 日本文学と原爆」(法政大学出版局)
なんて読まされると…。
追う=負うべきことはやっとこかぁ、とつい身の程知らずの欲求が起こります。
では、今後の“読み歩き”期待しております。
投稿: 山猫 | 2011年11月 2日 (水) 00時57分
いつもながらに「搦め手」からのご教示、ありがとうございます。
中野清一という人のことは初めて知りました。
満洲建国大学に原爆孤児の問題、色々な意味で当時の日本の一側面が凝縮された人生を歩んだ方なのでしょうか。
まだまだ掘り起こさなければならない人物がいるものだなあ、と興味深いです。
投稿: トゥルバドゥール | 2011年11月 3日 (木) 21時43分