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2011年10月12日 (水)

スコット・A・シェーン『〈起業〉という幻想──アメリカン・ドリームの現実』

スコット・A・シェーン(谷口功一・中野剛志・柴山桂太訳)『〈起業〉という幻想──アメリカン・ドリームの現実』(白水社、2011年)

 起業家といったらどのようなイメージを思い浮かべるだろうか? 例えば、先日亡くなったアップルのスティーブ・ジョブス? 彼のビジネス上のエピソードは非常にドラマチックで興味は引かれる。しかし、それはあくまでも例外的な成功例であって、安易に起業家一般のイメージと結び付けてしまったら大間違い。

 起業家とはとりあえず、リスクを前提としつつ自ら新たなビジネスを始めた人々、としておこう。フロンティア・スピリッツあふれるアメリカ、そんなイメージも持たれがちではあるが、その割には他国と比べて起業精神あふれる国とは必ずしも言えないらしい。本書は、具体的な統計データをふまえてアメリカの一般的な起業家像を描き出す。典型的な起業家はどんな人々か? 生計を立てたいが、他人の下で働くのが嫌な中年の白人男性。失業したり、収入が下がったりといったときに起業するケースが多いが、雇用されているときよりも収入は下がり、長時間労働を強いられる。新たなジャンルでビジネスチャンスをねらって、というよりも、魅力がなくても熟知している前職の関連分野を選ぶ傾向がある。零細な自営業で、成長の見込みも意欲もない。こうしたスタートアップ企業は経済成長には寄与せず、新たな雇用も創出しない。

 よくよく考えてみれば意外でもなんでもない、ごく当たり前の結論。メディアで注目される神話的イメージを崩していくのが本書の目的で、ある意味、偶像破壊的な描き方とも言える。だが、現実と乖離した「神話」を基に政策立案をしたり、ましてや自身の将来展望を描くわけにはいかない。だから、起業はやめた方がいいというわけではない。華やかなイメージに振り回されずに着実な観点から「起業」の問題を考え直す点で興味深い。

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