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2011年9月 4日 (日)

上丸洋一『『諸君!』『正論』の研究──保守言論はどう変容してきたか』

上丸洋一『『諸君!』『正論』の研究──保守言論はどう変容してきたか』(岩波書店、2011年)

 著者は朝日新聞編集委員で、かつて『論座』編集長も務めた。保守系論檀紙とされる『諸君!』(文藝春秋)と『正論』(産経新聞社)の創刊事情から、核武装論、靖国問題、東京裁判、天皇の戦争責任、朝日新聞批判、北朝鮮問題などのテーマをめぐってこの二誌に登場した論客たちがどのような議論を展開してきたのかを跡付ける。

 『諸君!』『正論』などに執筆する保守派・右派の論客たちの多くに共通する特徴として、イデオロギー的な二項対立に基づき進歩派・左派とみなした論敵に対して排他的に攻撃を加える傾向が指摘される。しかしながら、本書にしても冒頭で紀元節復活論から説き起こしていることからうかがえるように、分析対象とする上記二誌に対して予め色づけをした上で批判を加える図式になってしまっているのは、立場は違えどもやはり同様の落とし穴にはまっているのではないか、という疑念を感じてしまう。稲垣武『「悪魔祓い」の戦後史』(文藝春秋)と合わせて複眼的に読んでみると面白いだろう。

 上記二誌にはもちろんファナティックな右派も登場するが、他方で、かつて進歩派的傾向が論壇の主流であった時代、そこからはみ出した様々な言論人が発言の場としてこの二誌に寄稿したケースも多く、その中には左右を問わずファナティックな言論に対して批判的なバランスのとれたリベラリストも確固として存在した。本書の二誌に対する色づけは論旨を明確にするための戦略的な書き方であろうことは理解する。しかし、公平を期するためとして例えば林健太郎、福田恒存、猪木正道などの議論も紹介しているにしても、保守派の良質な部分まで一括りにした誤解を読者に与えかねないところはいただけない。ただし、こうしたかつてきちんと筋を通していた論客の議論と比べて、最近のセンセーショナリズムに走った保守論壇の議論の質が劣化しているという見立てには私も賛成である。

 あとがきで、この二誌に登場しても一、二年で消えてしまう執筆者の例として具体的にある人の名前を挙げている。すぐ消えてしまうライターの書くことなど信頼できないと言わんばかりだ。その人物を国会図書館の雑誌記事検索で調べてもその後は出てこないと書いているが、実はこれはある研究者のペンネームである。そのペンネームを雑誌記事検索ではなく書誌一般検索に入力すると、本名で書いた著書もヒットして表示される。だから、しっかり調べていれば現在も活躍中の人物であることが分かったはずだ。調査の詰めが粗いにもかかわらず憶測で余計なコメントを付け加えている箇所がところどころ気にかかった。

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