フィリップ・ショート『毛沢東──ある人生』
フィリップ・ショート(山形浩生・守岡桜訳)『毛沢東──ある人生』(上下、白水社、2010年)
毛沢東をテーマとした書籍はそれこそ汗牛充棟の感があるが、毛沢東礼賛に終始するか、さもなくば彼の失政への批判が中心だったり、私生活の裏面を粗探ししたり(これはこれで面白いんだけど)といったものが多く、本書の訳者あとがきで述べられている通り、確かに彼の生涯をバランスよく概観できる書物は少ないという印象はある。イデオロギー的対立の中心の一人となった人物だから礼賛/批判の両極端な論調は仕方ないのかもしれないし、中国でも毛沢東にとって都合の悪い史料は現段階ではまだ閲覧できないだろうから、生涯の全体像を実際に即して再構成する作業はもうしばらく先のことになるのだろう。
そうした中にあって本書は著者の外国人ジャーナリストとしての立場から党派性を出さないで時系列に従ってリーダブルに描き出している点では、中国現代史における毛沢東を考える上で一つのたたき台になり得るのかもしれない。毛沢東を主人公とした中国共産党史とも言えるし、それは同時に権力闘争や政敵粛清の歴史でもある。あくまでも政治的人間関係の話題が中心なので、外政・内政にわたる諸論点について他の本で補いながら読む方がいいだろう。
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