ロバート・B・ライシュ『余震(アフターショック)──そして中間層がいなくなる』
ロバート・B・ライシュ(雨宮寛・今井章子訳)『余震(アフターショック)──そして中間層がいなくなる』(東洋経済新報社、2011年)
・現代アメリカにおいて資本主義経済のシステムが健全に作用してないというのが本書の趣旨で、サブタイトルにある「そして中間層がいなくなる」というフレーズに問題意識が端的に表れている。
・一握りの富裕層のみが経済成長の恩恵を受ける一方、大半のアメリカ人が取り残されてしまう。問題は仕事がないということではなく、失業後に新しく仕事を得たとしても賃金が前の職よりも低くなる傾向がある。他方、アメリカは自国内での消費者の購買力をはるかに上回る生産能力があり、格差の拡大によって消費が追いつかない。生産と消費とが適切にリンクされるという意味での経済の基本取引が破綻してしまっている。中間層の購買力がなければ生産に見合う消費は起こらないし、格差への不満は社会的不安や排外的感情を引起しかねない、こうした問題意識を明らかにした上で、第Ⅱ部では近い将来にあり得る政治的シミュレーションを行い、第Ⅲ部では具体的な提案を示す。
・第Ⅲ部での提案:負の所得税(給付つき税額控除)→消費活動を誘発。再雇用制度の工夫→適切な所得を配分しながら職業教育。世帯収入に応じた教育振興券や高等教育の学生ローン改革→教育を受ける機会の拡大。メディケア(公的医療保険)。公共財の拡充。政策上の意思決定をゆがめている政治とカネの癒着からの訣別。
・一読してそれほど目新しい議論がされているとは思わない。むしろ本書で示される問題意識が、日本における格差社会をめぐる議論でもよく見かける論点とほぼ重なっているところに関心を持った。
・市場経済に対しての世代間の記憶の相違という論点に興味を持った。1930年代に成人した人々にとって大恐慌の記憶は生々しく、その教訓は1940~50年代に引き継がれた。彼らの孫の世代は大繁栄時代に生まれ、信用の置けない市場を政府が補完するという祖父母世代の経験を継承しなかった。むしろこの孫世代は政府の失敗と市場の成功を目の当たりしており、自由市場主義者の刺激的な主張に感化されやすくなっていた、という(70ページ)。
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