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2011年7月14日 (木)

ポーターとかプラハラードとか適当に経営戦略論

 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2011年6月号の特集は「マイケル・E.ポーター 戦略と競争優位」。ポーターの理論のエッセンスや最近の議論がわかる論文を6本収録。有名な競争優位の戦略論は、要するに、業界構造を正確に把握→差異化により自らを負けないポジションに置くことを戦略の本質と捉え、この応用で議論を展開していると言えるだろうか。

 業界構造におけるポジショニングで優位に立とうとするポーターの戦略論が静態的であるとするなら、これに対して企業が自らの能力を活かしながら市場機会を創出、業界構造そのものを変えていく、そうした動態的な側面に注目しながら戦略論を構築したのが、ゲイリー・ハメル&C・K・プラハラード(一條和生訳)『コアコンピタンスの経営──未来への競争戦略』(日経ビジネス人文庫、2001年)である。コアコンピタンスとは要するに企業の優位性を持続させる核心的・総合的な競争力の源泉のことだが、単に技術力などのハードを指すだけでなく、経営資源のマネジメントなども含め、結果として競争優位をもたらした要因を幅広く捉える概念である。長期的なタイムスパンの中でようやく捉えられる動態的なものであり、業界構造分析の静態的視点とは異なる。ただし、沼上幹『経営戦略の思考法──時間展開・相互作用・ダイナミクス』(日本経済新聞出版社、2009年)でも指摘されているように、両者を排他的な概念と捉えるのではなく、戦略行動のどの側面に重きを置くかによって表れた相違であって、むしろ両者を相補的に考えるのがベストであろう。

 プラハラードはBOPビジネス、つまり貧困層をターゲットとしたビジネスモデルを提起したことでもよく知られている。C・K・プラハラード(スカイライン コンサルティング株式会社訳)『ネクスト・マーケット──「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略』(増補改訂版、英治出版・ウォートン経営戦略シリーズ、2010年)を読みながらメモ。
・BOP(Bottom of the Pyramid)の一日2ドル未満で暮らしている40億人を市場として開発する。大企業の投資力をいかに活用できるのか? 収益を上げつつ貧困を撲滅するという発想。
・貧困者一人一人を個人として尊重するのが出発点。商取引の民主化、一人一人をマイクロ生産者、マイクロ起業家、マイクロ投資家と考える。「貧しい人は犠牲者であり、重荷である」→「彼らは内に力を秘めた創造的な起業家であり、価値を重視する消費者である」と認識を改める。
・BOPの潜在力に働きかけて消費力を創出、ビジネスを展開→新たな製品やサービス開発のチャンス(イノベーション)→貧困者が消費者へと変わると購買のために自ら選択するという行為→「貧困層が自ら選択し、自尊心を養う機会を創り出す」ところにこうしたアプローチの長所。
・BOP市場におけるイノベーション12の原則:①コストパフォーマンスを劇的に向上、②最新の技術を活用して複合型で解決、③規模の拡大を前提、④環境資源を浪費しない、⑤富裕層向けの考えを捨て、求められる機能を一から考え直す、⑥提供するプロセスを革新する(流通の問題)、⑦BOP市場の人々は作業スキルが高くない→現地での作業を単純化、⑧顧客の教育を工夫、⑨劣悪な環境にも適応させる、⑩消費特性に合うユーザー・インターフェースを設計、⑪貧困層にアプローチする手段を構築、⑫これまでの常識を捨てる。
・入手できる情報、選択の自由、契約施行の力、社会的地位における非対称性→貧困層自身の取引統治力を培う。民間企業は資源活用・市場対応力を高めるために市場特性に合わせたシステムを創ろうとする→社会的にもプラスの影響。
・BOPビジネスのケーススタディを豊富に収録。

 なお、上掲『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』「マイケル・E.ポーター 戦略と競争優位」特集の冒頭に掲載された論文、マイケル・E.ポーター、マーク・R.クラマー「共通価値の戦略」は、事業活動と社会的課題とをトレードオフではなく、営利・非営利という境界を越えてビジネス戦略のロジックで捉える。社会のニーズや問題に取り組む→社会的価値を創造→経済的価値へと結びつける。企業の目的は、単なる利益ではなく、共通価値の創出と再定義すべきと言う。

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