ピーター・へスラー『疾走中国──変わりゆく都市と農村』
ピーター・へスラー(栗原泉訳)『疾走中国──変わりゆく都市と農村』(白水社、2011年)
アメリカ人ジャーナリストが中国で運転免許を取り、一人でレンタカーを運転して各地をまわった見聞をつづるノンフィクションである。三部構成で、第1部では北京を出発、万里の長城沿いに内モンゴルや河西回廊まで遠出。第2部は北京北郊の村落に長期滞在した記録。第3部では浙江省南部、温州市や麗水市の工場都市で出会った労働者たちの姿を観察する。
著者は中国語ができるので、人々との出会い、語り合いを通して、フォーマルな交流では見えてこない農村や地方都市における人々の意識の変容を捉えようと努めている。運転途中、ヒッチハイクの人々を乗せることもしばしばあり、著者近影を見ると明らかにアングロサクソン系の顔立ちだが、何度か「中国人ですか?」ときかれたことがあるというのが面白い。ウイグル人、回族、モンゴル人に思われたこともあるという。そんなところで中国の広さを実感してしまうが。
人々の貧しい境遇を通して中国社会の構造的矛盾も垣間見える。ただし、彼らとの語らいを素直に描き出そうとするのがメインで、社会的不公正告発といったスタンスが前面に出てくるわけではないので、その点では生硬さを感じさせずに読み進めることができる。目の当たりにした光景の一つ一つが丁寧に描写されるところが興味深い。都会の高速道路をあしらったカバーは内容とはイメージがちょっと違うような気がした。
なお、著者は『現代中国女工哀史』(白水社、2010年。原題はFactory Girls)を書いたレスリー・T・チャンの旦那らしい。この本もなかなか興味深くて、こちらで以前に取り上げたことがある(ただし、私が読んだのは原書)。
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