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2011年7月11日 (月)

李大同『『氷点』停刊の舞台裏』

李大同(三潴正道・監訳、而立会・訳)『『氷点』停刊の舞台裏』日本僑報社、2006年

・共産主義青年団の機関紙・中国青年報の折込附属紙「氷点週刊」は率直な問題提起で本紙よりも人気があったが、2006年1月、当局の指示で停刊させられた。本書は、編集者として当事者であった著者が停刊前後にどのようなやり取りがあったのか、その経過を記した手記である。中国では刊行できないことを見越してだろうか、中文の原文も収録されている。

・停刊の理由は、袁偉時(中山大学教授)の論文「現代化と歴史教科書」の掲載が当局から問題視されたこと。中国の歴史教科書では義和団を帝国主義に抵抗した愛国主義として称賛する一方、彼らの非理性的な性格がかえって欧米列強につけ込まれるきっかけになったマイナス面を無視していると袁教授は指摘、歴史を客観的に考察できない硬直した教科書記述について問題提起をしていた。ところが、中国では歴史の解釈権は共産党にあり、この論文は党や国家の方針に反するものだと批判された。

・学術的議論を一方的に封殺するのは言論の自由に対する圧迫だとして、一般読者や党内改革派も含めて多くの人々が反発。同時期、「氷点週刊」に「你可能不知道的台湾」を掲載したばかりの台湾の作家・龍応台が早速「请用文明来说明我」というタイトルの胡錦濤宛公開書簡を発表(中台統一を妨げているのは台湾の独立派ではなく、言論の自由が許されず「価値観のアイデンティティー」が保障されない中国の社会体制にあると指摘)したのをはじめ、国外のメディアからも批判を受けた。

・こうした批判を当局も気にしてであろうか、3月には「氷点週刊」復刊の許可が出た。ただし、袁偉時批判論文の掲載が条件とされた。これを読んだ袁偉時は早速反論の論文を執筆したが、掲載は許可されなかった。他方で、当局は袁偉時には反論の機会は保障されており中国では言論の自由はゆるやかになっていると声明を出しているという矛盾。

・なお、ふるまいよしこ『中国新声代(しんしょんだい)』(集広舎、2010年)に袁偉時と龍応台の二人へのインタビューが収録されており、この事件を通して考えるべき問題点について語っている。

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