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2011年7月12日 (火)

関志雄『中国を動かす経済学者たち──改革開放の水先案内人』、胡鞍鋼『国情報告 経済大国中国の課題』、樊鋼『中国 未完の経済改革』

関志雄『中国を動かす経済学者たち──改革開放の水先案内人』(東洋経済新報社、2007年)
・計画経済の壁→自由な経済活動は個人の違法行為だが黙認→地方レベルで部分的合法化→全面的合法化、こうしたプロセスの中で経済活動正当化のための理論的サポートを求められて経済学者の需要。
・中国政府に政策提言をしている主流派は効率重視の新自由主義者。他方、格差拡大への懸念から、結果の平等重視の新左派も非主流派ながら庶民の間では人気。両者は経済問題に関してはタブーなく議論。本書では、政策目標を効率に置く新自由主義者→機会の平等重視→結果の平等重視の新左派というグラデーションの中で著名な経済学者を分類。
・計画経済から市場経済への制度移行という問題意識→安定的な市場を暗黙の前提として資源配分のあり方を研究する新古典派経済学ではなく、新制度経済学を導入。例えば、ロナルド・コースの取引費用の理論、ダグラス・ノースの新経済史の理論、ジェームズ・ブキャナンの公共選択の理論など。
・価格改革か(呉敬璉)、所有制改革か(厲以寧)
・張五常(香港大学):所有権を軸に中国経済分析、民営化を主張→新自由主義による経済改革の方向性を示す。経済随筆というスタイルを確立。
・楊小凱(モナッシュ大学):ジェフリー・サックスと共著あり。技術模倣(ex洋務運動)よりも制度革新(ex明治維新)の方が重要→技術模倣に終わって制度設計ができなければ先に進めない(後発性の劣位)→憲政とビッグバン・アプローチを主張。また、銭頴一(カリフォルニア大学バークレー校→清華大学)は健全な市場のために政府を抑制→法治の確立を主張。
・林毅夫(台湾出身で大陸へ亡命、北京大学):民営化よりも前に企業の「自生能力」の育成が前提。漸進的改革を主張。技術移転により低コストでキャッチアップ→後発性の優位。競争的市場では価格が製品と生産要素の希少性・需給関係を正確に反映する→その情報に基づいて比較優位の戦略を立てる。
・胡鞍鋼(清華大学):国情研究。効率重視の市場競争と同時に公平性を確保するため政府の役割→第三の道。
・樊鋼(民間学術機構である中国経済改革研究基金会国民経済研究所所長):市場移行と経済発展の同時進行過程として中国の経済改革を把握。
・朗咸平(台湾出身、アメリカで活躍→香港中文大学)は民営化による国有資産の不当な流出を公平性の観点から批判。対して、周其仁(北京大学)は効率性重視の観点から、そういった問題があっても改革の中止ではなく加速化を主張。

胡鞍鋼(王京濱・訳)『国情報告 経済大国中国の課題』(岩波書店、2007年)
・中国経済が各方面で抱える問題点を概観しながら課題と方向性を示すのが趣旨。
・中国経済の不均衡な発展→環境とのバランス、人を中心としたサステイナビリティなど緑色発展への転換が必要。
・経済成長を牽引するのは都市であり、内需拡大、三農問題の解決などの問題意識→都市化の進展が重要。
・かつては宗族、人民公社といった横のつながり→市場経済化の進展により個体の分断傾向。また、社会的格差の二極化傾向→ソーシャル・ガバナンスの機能不全という問題意識。
・経済環境安定のためには政治の安定、つまり政策決定の制度化が必要。その中に専門家・有識者による諮問メカニズムを確立させる必要。中央集権と地方分権の混合型の公共安全システム構築の必要→国民を第一に、制度化建設を中心に、多様な社会問題に対応できるソーシャル・ガバナンス能力の引き上げを図る。官民摩擦、官の腐敗→クリーンな政治として共産党の施政能力を高める必要。グッド・ガバナンス。
・中国の台頭は平和的台頭・内需型台頭。国際社会の中で中国台頭のインパクト→5つの規模の経済性。巨大人口、労働力と就業の問題、経済規模による誘発効果、対外開放による市場拡大、他方で資源消費の問題は規模の不経済。

樊鋼(関志雄・訳)『中国 未完の経済改革』(岩波書店、2003年)
・いきなり高度な産業は無理。まず付加価値は低くても労働集約的な部門から後発性優位を活かしながら。自力更生よりも海外からの技術移転。国際競争力強化のためには、蛙飛びでハイテクを目指すよりも適正技術。
・地域格差、とりわけ労働移動の障害。大都市の発展→他地域への波及を期待。
・農業問題。自給自足を強調するよりも、低価格の食糧の輸入も考慮すべき。工業化による余剰労働力の吸収。
・市場メカニズムの導入→担い手は専門家の指導(人治)から民衆の自発的行為(制度による調整、契約→法治)へ。
・中国の漸進的改革の特徴阿、旧体制に対する改革が多くの障害によって実施困難な中、旧体制の周辺で新しい経済主体を育成・発展、新体制へ向けた環境整備によって徐々に旧体制を改革→ソ連・東欧のビッグバン・アプローチとは違う。改革の進行過程に応じて目標を常に修正・調整。
・双軌制(二重価格制→既存製品は計画価格、新たに生産された製品は市場価格→市場取引が増えるにつれて計画価格は駆逐、市場価格へ収斂)。
・経済改革が先行、政治改革は遅れている。
・所有制改革では国有企業改革がカギ。「放権譲利」(下級政府や企業に権限を委譲して利益を分ける)→所有者の権限と責任が不明確で失敗。非国有企業の発展による環境変化が前提。
・銀行の不良債権は実質的には国有企業に対する財政補助の役割。中国経済の特徴は、銀行の不良債権の金額が大きく、政府債務と対外債務が相対的に小さいこと。
・改革は政府自らの意志で設計した発展戦略というよりも、多くの主体の利益衝突を反映した「公共選択」の結果。

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