陳祖恩『上海に生きた日本人──幕末から敗戦まで』、高綱博文『「国際都市」上海のなかの日本人』
陳祖恩(大里浩秋監訳)『上海に生きた日本人──幕末から敗戦まで』(大修館書店、2010年)は千歳丸に乗船して来航した幕末の高杉晋作やいち早く上海に進出してた長崎商人、からゆきさんたちから、日本敗戦後の引き揚げまで、上海を舞台に行き交った有名無名さまざまな日本人の足跡をたどる。時系列的な叙述をとりつつ人物的なエピソードもふんだんに取り混ぜられているので興味深く上海史をたどることができる。
高綱博文『「国際都市」上海のなかの日本人』(研文出版、2009年)は上海における日本人居留民の意識構造の変化を分析した論考を中心に集めている。
・時期区分:第一期(前史)は日清修好条規が結ばれた1871年から日清戦争まで、第二期(形成・発展期)は1937年の第二次上海事変まで、第三期(戦時期)は1945年の敗戦まで、第四期(「日僑集中区」期)は引揚まで。
・第一次世界大戦から1920年代にかけて日本人居留民でもおおまかに3つの区分→「会社派」エリート層は旧イギリス租界やフランス租界に居住。「会社派」中間層は会社員で社宅やアパートメントに居住。「土着派」はその他の一般庶民層で虹口・閘北などに居住。
・1906年の「居留民団法」、1907年の「居留民団法施行規則」によって上海租界日本人の居留民団設立→会社派の影響が強い。他方、町内会─日本人各路聨合会→土着派が依拠する「草の根のファシズム」的組織・
・1925年の「在華紡」争議。
・1932年の第一次上海事変→パニックの中、日本人の在郷軍人会や自警団も動員され、中国人民衆への残虐行為。
・日中戦争期における「上海租界問題」:1937年8月13日の第二次上海事変→日本軍が華界を占領、租界を包囲、しかし租界は孤島のように存続→強硬派は接収を主張、国際派は国際都市としての上海の位置付け維持を主張→1941年の対英米開戦で日本軍は共同租界に進駐したが、国際都市としての外観は維持するために工部局の行政は英米人に任せる現状維持。
・上海内山書店小史。
・上海の高校に赴任した英文学者・沖田一の上海郷土史研究の分析を通して、上海日本人居留民の歴史意識の生成を捉える。
・上海居留民社会の敗戦後における意識の変化。
・引揚後のノスタルジーの分析。
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