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2011年7月23日 (土)

高橋信也『魔都上海に生きた女間諜──鄭蘋如の伝説1914─1940』

高橋信也『魔都上海に生きた女間諜──鄭蘋如の伝説1914─1940』(平凡社新書、2011年)

 1930~40年代、日本軍の大陸侵略という時代状況下、日中双方の様々な思惑から謀略が渦巻き、テロや戦火で荒廃していく国際都市・上海。いわゆる“魔都”を舞台に有象無象、様々な人々がうごめいていたが、その中でも本書が注目するのは数奇な運命をたどった一輪の花、鄭蘋如である。父は日本留学経験のある中国人法律家、母は日本人、日中混血の生まれとして葛藤しながらも中国人としての愛国意識に目覚めた彼女は、日本語能力や自らの美貌も武器に上海の社交界に打って出る。

 重慶政権のスパイとして汪兆銘政権の要人・丁黙邨に接近、暗殺に失敗して処刑された彼女の姿は、後年、その際立った存在感から様々に脚色されていくことになる。例えば、近年ではアン・リー監督でトニー・レオンが主演した映画「ラスト、コーション」が話題となった。この映画や張愛玲の原作については以前にこちらで触れたことがある。

 本書は、彼女を取り巻く謀略戦の背景と、彼女を主人公としたフィクションの形成過程との2点に焦点を当てながら、彼女の実像と虚像のあわいをたどり返そうとする。私自身としては前者の謀略戦というテーマの方が興味深い。日本側有志が進める汪兆銘擁立工作、激化する抗日テロ、国民党CC団を離脱した丁黙邨や李士群らが日本に協力して逆に抗日テロ弾圧に辣腕を振るった「ジェスフィールド76号」、そして「親日派」内部の勢力争い──こういった上海を舞台とする謀略戦の展開について、鄭蘋如というヒロインを得て描き出されているところが歴史ノンフィクションとして面白かった。

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