エリック・ミラン『資本主義の起源と「西洋の勃興」』
エリック・ミラン(山下範久訳)『資本主義の起源と「西洋の勃興」』(藤原書店、2011年)
・著者はウォーラーステインの弟子で、世界システム論の手法に則って議論が進められる。資本主義の起源をめぐって、マルクス主義や近代化論が産業革命重視・中世経済停滞史観を取り、また師匠のウォーラーステインの世界システム論も16世紀以降にこだわっているのに対して、本書は15世紀以前からすでに資本主義の特徴は見られると指摘、中世からの連続性の中で資本主義の起源や13世紀以降の「西洋の勃興」を捉え返す議論を展開。とりわけ都市国家という要因を重視。
・中国、南インド、北アフリカのイスラーム世界との比較を通してヨーロッパの特徴を捉える。前者の世界においては政治的領域と経済的領域との隔たりが大きく、商人階級が権力に接近するための制度的な居場所がなかった。商人の活動に対する国家による支援の不在。
・ヨーロッパの場合、その居場所が都市国家。ヨーロッパの貴族層は非ヨーロッパ世界の貴族と比べて相対的に貧困→政治的権力に限界→都市は納税等の見返りとして特権や自律性を獲得。富裕な商人や都市に基盤をおくブルジョワジーが政治的権力をもつことが資本主義システムの形成に不可欠な要件。
・都市国家は隣接する農村から安価な原材料、労働力、課税などを獲得→こうした都市/農村関係は後に中核/周辺という関係のプロトタイプとなる。
・富の蓄積自体はアジア、アフリカ、ヨーロッパを通してどの地域でも見られた。しかし、植民地化、搾取、中核による従属的周辺の支配という過程の推進から資本を蓄積するという体系的な政策は、ヨーロッパの商人によって着手された例外的なプロセス。ヨーロッパにおいて都市が隣接する農村を支配→このプロセスが非ヨーロッパ地域へ拡大して、商業的帝国主義に立脚した資本主義システムへの道が現れた。都市国家はこうした動態における「権力の器」として作用→1500年以降はこの役割を国民国家が果たすことになる。
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